コミュニケーション改善の目的
なぜコミュニケーションを改善するのか?改善には以下の目的があります。
- 従業員エンゲージメントの向上
- 生産性向上
目次
1.従業員エンゲージメントの向上
従業員エンゲージメントを継続的に高め、業績向上に結び付けるには、「研修」「サーベイ」「環境改善」「組織開発」「福利厚生の充実」等の打ち手も確かに必要ですが、働き方、コミュニケーションの在り方等、抜本的な問題の解決が必要です。
従業員エンゲージメントとは
「エンゲージメント」という言葉は、ブランドや企業への思い入れを表す言葉で、「顧客エンゲージメント」と言うと、お客様がどれだけ自社製品やブランドに愛着を持ってくれているかを測る指標として、一方「従業員エンゲージメント」は、従業員が現在働いている会社に対して、どれだけ貢献したいと考えているかという、愛着を表す指標として、活用されます。
終身雇用が当たり前という時代は、その中で従業員エンゲージメントが自然と高まっていきました。現在では、終身雇用が崩れ、より良い待遇を求めての転職者増、労働人口減少による雇用困難度の上昇等、環境が大きく変化しています。
このような中で、金銭的な側面だけでなく、「会社と従業員との関係性づくり=従業員エンゲージメントの向上」が着目されています。しかも従業員エンゲージメントについては、ギャラップ社という会社を中心に様々な調査と研究がされており、
- 従業員エンゲージメントの高い会社の営業利益率は低い会社の営業利益率に比べて1.5倍高い
- 従業員エンゲージメントが高い社員の割合が1%向上すると、売上が6%アップする
など、「従業員エンゲージメントと会社の業績は相関性がある」という研究結果が、世界各国で発表されています。従って「従業員満足度の向上」とも、単なる「離職防止策」とも違い、従業員エンゲージメントの向上は、「業績に直結する取り組み」と認識されはじめ、今多くの会社が、従業員エンゲージメントに関心を寄せています。
日本の従業員エンゲージメントは世界で最低レベル
従業員エンゲージメントへの関心は高くても、熱意を持って主体的に仕事に取り組み、成果を出して組織に貢献しようとするような従業員の割合は、日本は世界でもっとも少ないのは事実のようです。
前述のギャラップ社によれば、「熱意あふれる社員」の割合は、米国の32%に対し日本はわずか6%。「やる気のない社員」は約70%に上るそうです。(アンケートへの回答の仕方そのものが、日本人は控えめな点は否めず、本当か?という意見もあります)
これはなぜなのでしょうか?
従業員エンゲージメント向上ブーム
今「エンゲージメントを高めるには・・・」という情報はあふれています。
「リーダーシップ」「チームビルディング」「サーベイ」「環境改善」「組織開発」「福利厚生の充実」等。
しかし従業員エンゲージメントの向上はそれが一時的な向上ではなく持続可能なものである必要があります。なぜならそれでこそ業績向上に結びつくからです。タワーズワトソン社は継続的な従業員エンゲージメント向上のために、以下の3つの「E」を掲げていることで有名です。
- すなわち会社の方向性を理解し、それが正しいと信じ、組織の成功のために全力を尽くそうとする意志があるか?<Engaged>
- エンゲージメントを持続させる環境として生産的な職場環境かどうか?<Enabled>
- エンゲージメントを持続させる環境として元気が出る職場かどうか?<Energized>
という3つの「E」を、「持続可能なエンゲージメントに必要な要素」としているのです。表面的なところだけを改善するのでなく、エンゲージの低い真の理由を見つけて会社全体で改善をしない、と継続的な従業員エンゲージメントの向上はないということです。
日本の従業員エンゲージメントが低い理由
- 時間で働く習慣
多くの日本企業では、早く仕事を終わらせようが、短時間で成果を出そうが、始業から終業までは会社にいなくてはいけません。早く帰ったりすると給与を減らされてしまうことにもなりかねない・・・。
その結果、能力が高かろうが低かろうが、ITを導入して業務が改善されようがされまいが、「時間が余らないようにスローペースで仕事をする」という癖が身についています。
あるいは、無我夢中で仕事をする、あるいは緊張感を持って仕事をすることがあまりなく、だから「やった!出来た!」という気持ちにもなりにくい。
時間があるばっかりに、「仕事のための仕事」「会議のための会議」も生まれやすくそれがまた効率を下げ、さらにその結果、エンゲージメントが低下し、また効率が下がる。
このような、負のスパイラルに陥っていることが、日本の従業員エンゲージメントが低い理由ではないでしょうか? - 「説明責任を強いるコミュニケーション」でリスクを避ける風土
みなさんは、「やってみないとわからないこと」について、「なぜ成功できるのか?のロジックを事前に説明せよ、そうでないとそのチャレンジは許可出来ない」と突っ込まれたことはありませんか?
こういったことが会社の中で多いと、従業員はチャレンジする気持ちを失い、結果無難な仕事をこなすだけになり、エンゲージメントが下がってしまうのではないでしょうか?
それだけではなく、一人が「やってみなはれ!」と言ってくれても、他に何人もの人に、そう言わせないといけない・・・となれば、さらに「チャレンジする=面倒くさいこと」になってしまい、これもやはりエンゲージメントの低下につながりかねません。 - 「使える人」「器用な人」「社内遊泳の上手な人」が評価される
成果主義がもてはやされる今でも、多くの企業では、能力主義をベースとしたした職能等級制度を人事・評価制度に採用しています。
そこで評価される能力は、どちらかというとテクニカル(強味になる専門技術)ではなくテクニック(業務遂行能力)です。
「誰にでもできる仕事」ではなく、「プロフェッショナル(あなたにしかできない仕事)」を輩出するという方向に、人材マネジメントの舵を取ってこなかったため、「自分の存在価値」を感じる従業員が少なく、従業員エンゲージメントが上がらない原因になっていると思われます。
生産性向上
近年、「コミュニケーション」と「生産性向上」との相関関係が証明されつつあります。この相関関係をしっかりと認識しない限り、コミュニケーションの改善には本気で取り組めません。
「コミュニケーション」が生産性を下げる?
「会議終え 本音を言いに 喫煙所」
これは、「サラリーマン川柳コンクール」にあった川柳で、多くの企業でもよく見かける光景ではないでしょうか?会議の主催者も参加者も、本来は生産性を上げるためのコミュニケーションの場として会議を主催し、開催しているにも拘らず、結果的にはムダな会議、つまり生産性を下げる会議になってしまう。
もちろんその原因は、会議の進め方や会議前後の準備の仕方などもあるのですが、根本的には、「コミュニケーションが良くなると生産性が向上する」「だからコミュニケーションをもっと改善しよう」という強い想いに欠け、コミュニケーションの改善が進んでいないことが、その原因ではないでしょうか。
なぜなら、この強い想いがないと、忙しさや様々な問題がある中労力を割いてまで、会議の進め方や会議前後の準備の仕方などレベルアップしようという気にはなれないからです。よしんば、取り組んでも長続きせず、結果生産性の向上を阻害するようなコミュニケーションを行うことになっている、と考えられるからです。
コミュニケーションは生産性向上のためだけでない
エンゲージメント向上、離職防止、人事・評価制度の改訂等、様々な経営課題が、次々に出てくる昨今の企業経営ですが、これらの課題への対策もまた「コミュニケーションの良さ」が決め手であることは、衆知の事実として知られています。
これが事実であるならば、コミュニケーションが改善されると、エンゲージメントも離職率も人事・評価制度の機能化もうまくいくことになるので、コミュニケーションは経営の中で重視され、改善がもっとされても良いはずです。
しかし、多くの企業で聞かれる声は、自社の「コミュニケーションの悪さ」です。ちなみにHR総研の2019年1月の上場及び未上場企業の人事責任者・担当者への調査では回答216件中、
- 社内のコミュニケーションに課題がある 73%
- 社員間のコミュニケーション不足は業務の障害になる92%
との回答がありながら
- 社内の情報共有が十分できている 2%
という回答になっていました。
問題意識がありながらも手が打ち切れていない背景にはいったい何があるのでしょうか?
技術論は当然ですが、やはり「コミュニケーションを良くすると生産性も良くなる」という強い思いが足りないので、投資や教育、工夫改善などに経営者、社員ともに、十分な取り組みがされていないのではないでしょうか。
生産性の高い社員はコミュニケーションをよく取っている
東京大学の「経営行動化學ハンドブック」を読むと、「従来の経済学は労働者を単なる生産要素として扱ってきたが、人事経済学における扱いは、労働者は自ら意思決定を行い、努力水準や行動を選ぶものとして扱う」とあります。
また、「強い絆・弱い絆」で有名なハーバード大学の社会的ネットワーク理論によるコミュニケーションの研究成果、あるいは、ウェアラブル端末(腕や頭部など、身体に装着して利用することが想定された端末)を着けてもらい、動線や対話の回数、内容を分析する研究なども盛んに行われています。
つまりこれらのことから、元々経営学の中では研究対象によくあがっていた「コミュニケーション」が、経済学の世界でも「人」そのものへの見方を変え、「人」と「経済」、言い換えれば「人」と「生産性」の関係を解き明かす研究として盛んになってきており、それらの研究をAIやITが後押しをしていると言えます。
そのような中から、「生産性」や「成果」と「コミュニケーション」の関係において次のようなことがわかってきています。
- フリーアドレスデスクのようなオープンワークスペースでのコミュニケーションの頻度は意外と低い(「人間のコラボレーションに対するオープンワークスペースの影響」イーサン・.バーンスタイン他)
- 設計の難易度とエンジニア間のコミュニケーションには相関関係があり、難しい設計過程ではコミュニケーションは密になり、簡単な過程ではその逆になる。
製品品質で問題が起きるのは、コミュニケーションがほどほどな、難易度もほどほどな設計箇所である。(「複雑な製品開発における品質に対する組織構造と製品アーキテクチャのミスアライメントの影響」ビラル・ゴクピナール他)
- 優秀な営業パーソンは自覚無く、フリーアドレス制の社内において「WalkingAround型」で、しょっちゅう誰かから話を聞いていて、自席にいることは少ない。(ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会 鹿内氏>
- ハイパフォーマーのプロジェクトマネジャーはプロジェクト初期の動き出しが非常に早く、顧客に提供する情報量が多く、メンバーと頻繁にコミュニケーションを取る。(早稲田大学 大湾氏)
このように「コミュニケーション」の研究は目覚ましく進歩してきており、特に「コミュニケーションが良くなると生産性や成果が良くなる」ということも発見されてきています。
自社において成果を上げている人、いない人、生産性を上げている部門、そうでない部門などを観察して、その動線やコミュニケーションの量や質の違いを見つけてみることが、生産性向上のために重要であると言えます。
コミュニケーションと生産性のつながりを分析する
前述のように、「高生産性の裏に良いコミュニケーションあり」は、どんどん実証されてきています。自社でどんなコミュニケーションの特徴が高生産性につながっているかを分析してみる必要がありそうです。
しかし、データサイエンティストや研究者によると、それを「調査」して分析しようとすると現場の人が普段と違う言動をしたりする(バイアスがかかる)ことがあるようです。
あくまでも「さりげない観察」「ありのままの文章・記録を見る」「ありのままの報告を聞く・見る」というアクションが大切になります。 その方が、動線の違い、コミュニケーションの違いを正確に把握できて、生産性との関係が把握しやすくなるためで、この点に注意が必要です。