キャリア自律で新常識を創る:後編
こんにちは。株式会社マネジメントパートナー人材・組織開発コンサルタントの北村理恵と申します。本セミナーでは3つのことをお伝えします。
1.キャリア自律の重要性と落とし穴について
2.キャリア自律推進のポイント
3.キャリア自律推進のポイントを取り入れて成果を出している企業の事例紹介
どうぞよろしくお願いします。
本記事では第2章・第3章をお伝えます。
第Ⅱ章では「キャリア自律推進のポイント」を、「三位一体」における三者各々に着目してお伝えします。
まずはご本人が自律的にキャリアを形成していくためのポイントからお伝えします。
目次
2.キャリア自律推進のポイント
キャリア教育を一斉に実施する企業もおられますが、世代別に実施することが効果的です。その世代によって、現在置かれている状況も培ってきたキャリア観も異なるからです。今回はどの世代にも当てはまるアプローチの一部を紹介します。
キャリア自律を推進するためのキャリア教育です。組織貢献をしながら自分のありたい姿を実現するために、まずは組織貢献に繋がる自分の責任を再認識します。その上で、自己理解を深め、ありたい姿をイメージします。次にありたい姿をより具体的にするために、起こりうる変化について仮説を立てます。仮説がその通りになるかということよりも、将来に向けて問題意識を持つことに意義があります。また、先々を見据えて磨くべきことがより明確になります。そしてありたい姿を実現するために何を磨き、どのような行動を取るべきかを考え、時間軸や現状も踏まえた上で行動計画を作ります。その行動計画を実践する過程で、自分の新たな可能性を発見し、視野が広がってきます。そのため、最初に考えたありたい姿に捉われず、ありたい姿を更新しながら継続的に成長します。
まずは自律へのマインドセットです。依存的な発想のままキャリア教育を受けると「キャリア自律」もさせられていると捉えてしまいます。キャリア自律をする上でまず大切なのが自律した働きぶりを実現しようとすることです。自分のありたい姿を実現するためには、組織からの期待を超える働きぶりを実現することが必須であるということにも気付く必要があります。その上で、今後どのようにキャリアを形成していくのかを考えます。
次に、ありたい姿を明確にするために過去・現在・未来の情報を整理します。
まず過去~現在に至るまで自分を振り返り、自己理解を深めます。同時に組織の方針や自分に期待されていることも認識します。その上で、ありたい姿を思考します。ありたい姿と現状とのギャップは何で、いつまでに何を身に付けていくのか、どのような経験を積むべきかを考えます。未来を考える上で外せないのが将来起こりうる変化と自分や組織に与える影響の仮説を立てるということです。ありたい姿を考える上で理想が高いのは良いことですが、「絵に描いた餅」にしないためには起こりうる変化についても踏まえることが大切です。また、今のうちに取り組むべきこともより明確になります。ありたい姿を考える上で、経験しないと気づけないこともたくさんあります。そこで大きな影響を与えるのがこちらです。
「選択肢を広げる」ということです。将来の選択肢が「管理職を目指すか、目指さないか」だけだと、管理職を目指さなかったときに成長に意味を見出せないということもあります。実際に、40代以上で管理職にならなかった方はモチベーションが下がっているというデータもあります。自分にとっても組織にとっても良い将来を実現するためには、多くの経験をし、自ら選択肢を増やすことが効果的です。各種制度を正しく理解してライフイベントとの両立やワークライフバランスを保つ方法を考えます。
また、管理職とはどのような役割があり、それを果たすために必要な考え方やスキルを学ぶことも大切です。それを知らないと漠然と「管理職は何でもできないといけない、管理職は大変そうだ」というイメージだけで避けてしまいます。
また、管理職にならなかったとしても、成長し続けることの重要性を学ぶことも大切です。管理職にならなかったら責任が軽くなるというわけではありません。責任の内容が異なるだけです。管理職という道を選択しなくても、管理職がマネジメントしやすいように働きかける、上手に管理職に巻き込む、また巻き込まれるための考え方やスキルも必要です。
目の前の責任を果たすことで周囲からの信頼が厚くなり、任されることや頼られる機会が増えます。
次に、他者の考え方や価値観を知ることで、視野を広げます。それと似ているのが他部署、他拠点との交流です。そして他者や他拠点の人がやっていることで、自分がこれまでやってこなかったことを整理することも大切です。これまでは目の前の業務に役立つスキルにしか関心が無かった方も、先々を考えて新たに学ぶべきことを発見することに繋がります。
そして、自らチャレンジをするということです。通常業務とは別にプロジェクトを立ち上げたり、進んで上司の業務をサポートしたりということも有意義なチャレンジですが、これまで避けてきたことや苦手なことに取り組むというのもチャレンジです。
自ら選択肢を広げることで、抽象的だった「ありたい姿」も、より具体化していきますし、いくつになっても目標を立て成長することの意味を見出すことができます。
そして、キャリア自律を阻害する要因を取り除くことも大切なポイントです。
キャリア自律を阻害する要因はキャリア形成に対する思い込みや先入観です。「こんなことしても意味がない」とか「きっと無理だ」と決めつけてしまうと、キャリア自律が受け入れられません。そうすると組織や周囲がどんなに良い打ち手を考えても効果は得られません。結果、変われないままさらにネガティブな思い込みが生まれる・・・このようなサイクルになってしまいます。ですから、キャリア形成に対する思い込みを溶かすこともキャリア自律を促す重要なポイントです。
例えば、女性社員によくある思い込みで「うちの会社は男性中心だから、現在時短勤務をしている自分には管理職という選択肢はない」という話をよく伺います。国の動きやSDGsなどから女性が働きやすくなるための環境を整えている企業が増えてきました。現段階で前例がないからといって「絶対ありえない」と決めつけてしまうと選択肢を自ら狭めてしまうのです。
ここまでで、キャリア自律をする人に対するポイントを5つ紹介しました。こちらを継続的に実施することで、多様な人材の活躍や離職率の低下など、様々な組織課題を解決した例が多数あります。しかしその成果は個人の力だけではありません。1人では限界があります。キャリア自律を推進するためには、支える人の存在が大きな影響を与えます。支える人とは、このような方々です。
若手社員の方の場合は先輩や上司がメインになると思いますが、40代以上の場合は、支える人が年下になることが多いです。また、その立場によって支え方は異なりますが、今回は時間の関係上、上司から部下に対する支え方についてご紹介します。
支える上司がまず意識することは、そのマネジメントスタイルです。
自律へのマインドセットを後押しするには、右側のマネジメントをすることが大切です。これまでは指示命令型のトップダウンというやり方が主流でした。ですが、このやり方だと部下は指示待ちになってしまい、自主的な行動が生まれにくくなります。なんでもかんでも「こうした方が良いよ」とアドバイスしてしまうのも、指示しているのと同じで自律を阻害します。自律を促進させるためには右側の相談型のマネジメントが効果的です。相談型とは、本人と目標を擦り合わせてから、試行錯誤しながらも目標に向かって自己統制するプロセスを支援するというやり方です。関わり方としては「こうすべき」と押し付けるのではなく、自ら考えて行動し、PDSを回しながら目標を達成することを促します。そしてPDSが円滑に回るようにコミュニケーションを取ります。例えば「こうした方が良いよ」と伝えるのではなく、「どうしたらより良くなると思う?」と問いかけます。問いかけるから考えるのです。問いかけ続けることで考える習慣をつけることができます。ここで重要な鍵を握るのが、フィードバックの仕方です。
効果的なフィードバックをすることで、自律を促すだけでなく、納得感を高めたり、自分の可能性を発見できたり、チャレンジへの意欲を高めることに繋がるのです。中でも9番の「チャレンジを推奨する」というのはとても大切です。それは、様々な業務を任せ、チャレンジすること自体を承認するということもありますが、失敗しても大丈夫という安心感を与えるという意味もあります。
実は私(※北村)もこれのおかげで考え方や行動が大きく変わりました。前職の話ですが、私が管理職になったばかりの頃、意欲に満ち溢れていて目標も高かったのです。しかし大きな失敗をしてしまいました。そこで自信を無くし、引き上げてくださった上司に申し訳ないという気持ちでした。上司をがっかりさせてしまったかなと思ったのですが、その時に上司が言ったのは、「そんなの想定の範囲内だよ。絶対大丈夫だから一緒に頑張ろう」という言葉でした。失敗が発覚した直後は著しくモチベーションが下がり逃げたくなりましたが、上司の一言により「想定外の成果を出してやるぞ」というモチベーションに変わりました。
次にポイントとなる支え方は「リーダーシップのあり方を見直す」ということです。
これまでは、カリスマ・支配型のリーダーが求められていました。誰よりも優秀で、常に的確な指示とアドバイスができ、周囲を力強く牽引するというリーダーです。変化の激しい時代、どんなに優秀な人でもすべての正解を知っているわけではありません。将来を予測するのはたいへん困難な時代です。そんな時代にこのようなリーダーシップを取ろうとするとハードルが上がり「自分には難しい」と考えてしまいます。
現在求められているのは、完璧でなくても自分らしいやり方で周囲を動かしていくリーダーシップです。自分が正解を出すのではなく、周囲と共により良い策を考え、共に新たな価値を創造します。そうすることで多様な人材を活かし合うチームを生み出すことができます。このようなリーダーシップ像を私どもは「等身大型リーダーシップ」と呼んでいます。ニューノーマル、そして多様性の時代に、より高い成果を出し、組織にも個人にも貢献できるのは等身大型のリーダーです。そんなリーダーの姿を見て、周囲の関係者は自律が促されるだけでなく「自分にもできるかもしれない」と思えるようになります。また年上の部下の自律を促すためにも効果的です。一定以上の経験を積んだ方々は、たとえ時代が変わっても培ってきた経験や乗り越えた経験があります。そんな方々を上から動かそうとしても上手くいきません。そもそも年上に向かって左側のような行動は取りにくいですよね。
そして、支える人の行動を阻害しないために必要なのが、抱え方や支える相手に対する思い込みです。
思い込みは誰にでもあります。個人だけでなく支える側にもあります。思い込みに気付かないと余計なアプローチをしてしまうかもしれません。だから支える側の思い込みも取り除く必要があります。思い込みを打破するために必要なのが「相互理解を前提としたコミュニケーション」です。これは支える人だけでなく、個人も磨く必要があります。
相互理解とは、相手を理解しようとするのと同時に自分を理解してもらうための努力をすることです。この相互理解を前提としたコミュニケーションを習慣化することが、思い込み・決めつけを生み出さないための第一歩になります。
相手を理解しようとしないと、自分の考えを押し付けるだけになります。一方、自分を理解してもらう努力をしないと、相手だってどのように接したら良いのかわからなくなりますし、良かれと思って余計な気遣いをするかもしれません。思い込みや決めつけは誰にでもあり、自分が当たり前だと思うことは人によって異なります。家族だって言葉に出して伝えないと分かり合えないことがあります。先入観は捨てて、理解し合う努力をする必要があります。
支える人のポイントは以上です。個人と支える人が共にキャリア自律に向けて伴走することでキャリア自律は推進されます。しかし現場の人間だけでも限界があります。組織の後押しも必要です。
組織の後押しとは、キャリア自律に紐づけられるような制度の構築や風土改革などです。現場のキャリア自律を後押しするためには、組織の重点課題であるということを明確にすることが第一歩です。ですので、まずは経営トップが企業理念やビジョン・中期経営計画と紐づけ、目指すべき姿と考え方、目的、意義を伝えた上で、三位一体で取り組むことを会社の方針として伝えるということです。
会社の方針として現場に浸透させるためには「なぜキャリア自律を推進すべきなのか」ということを熱く語ることが大切です。1回伝えるだけではなく、定期的に、浸透するまで伝え続けます。
次に、キャリア自律を推進する上で障害となっていることやどのような施策が効果的かを明確にします。そのために効果的になのが、業務改善、体質改善のプロジェクト、各種認知度調査です。
従業員の認知度や理解度を図ることで、打ち手が変わります。また、従業員の関心の高い項目低い項目がわかります。アンケートに関しては、回覧で一斉に回答を依頼するのではなく、アンケート実施前に経営トップから実施の意図や本音で回答いただくことのお願いを力強く伝えるとより効果的です。
そして、従業員が目指したいことや組織へ期待することを明確にすることで、キャリア自律を支援する上で課題となることを炙り出すことができます。社員インタビューは、ランダムで対象者を選択し、直接話を聴くということですが、こちらのインタビュアーも人事部や上司ではなく一般社員をランダムに選ぶというやり方もあります。一部の部署や人だけが担当するのではなく、多くの社員を巻き込みながら実施することで多くの人の意識も上がります。
その上で実施するのが、組織の各要素をつなぐということです。
現場の実態調査をもとに、ハード面、ソフト面を繋げます。
持続的な経営成果の向上には右の図にある、組織における9つの要素を繋げることが大切です。例えば、どんなに個々人の能力が上がっても、その能力を活かすための制度や体制が整っていないと上手くいかない、他の項目も繋がりがないと上手くいきません。そのため、キャリア自律を推進する上でも各要素とのつながりを持たせながら打ち手を考えます。
例えば、教育体系との連動です。こちらはキャリアについて考える場を定期的に設ける、時代背景やスキルについて学ぶ場を設ける、教育サポートシステムを構築するなどです。また、人事制度との連動も効果的です。例えば、目標管理シートにキャリア自律やチャレンジに関する項目を加え、評価対象にする等です。チャレンジできる体制創りとは、誰にでもプロジェクトを立ち上げることができる環境を整えたり、経営幹部へのプレゼンや一度選択した道でも変更することができる制度を作るというようなことです。
ここまでが組織がキャリア自律を後押しするポイントです。
3.キャリア自律推進のポイントを取り入れて成果を出している企業の事例紹介
第Ⅲ章は、第Ⅱ章で紹介したポイントを押さえながらキャリア自律を推進している企業を紹介します。
まず事例企業の現状ですが、こちらはご相談を受けた2019年11月時点のお話です。
社員数約600名のメーカーです。歴史があり、典型的なトップダウン型、そして男性中心の企業でした。新卒採用は毎年できていますが、若手社員の離職率はここ数年35%前後でした。2016年に親会社で上手くいっている「キャリアデザイン研修」を実施したとのことでした。
ご相談内容は大きく2つです。最初は若手から中堅層の話から始まりました。そこで、まず現場実態調査をしました。
調査方法は、現場実態アンケートと社員へのヒアリングです。ヒアリングは、約50名の社員に対して私(北村)が行いました。そこで発覚した問題点がこちらです。
最も深刻だったのは、若手社員よりも40代以上のモチベーション低下が顕著だったということです。一言でいうと「諦めている状態」です。また、キャリア教育が浸透しなかったのは、教育はしたもののチャレンジしやすい環境ではなかったということです。制度とも紐づいていなかったので、毎日業務に追われている中で何のためにチャレンジするのかが分からなかったのだと思います。上司も会社依存でキャリア形成してきたため、どのようにサポートしたらよいか分からなかったようです。
そんな中で若手は不満を持ち、ミドル以上の世代は諦めている状態でした。諦めている理由の1つに、3年毎に経営トップが親会社から出向してきて交代するということもありました。これはグループ子会社ならではの状況ですが、経営トップが交代する度に方針が変わる、その方針も現場の状況と繋がっていない、方針に合わせて努力しても成果が出る頃にはまた経営トップが交代する。その繰り返しのため、全力で現状を維持することが正解だと思っているという状況でした。
このような状況も踏まえた上で実施した施策は大きく4つです。
会社がどのように変化してもキャリア自律できている社員集団であれば、自ら成長し組織にとっても個人にとっても価値のある働きぶりを実現できると考えました。そして、ヒアリング内容を元に、支える人、特に上司のスキルアップにも取り組みました。
これらの施策は現行制度と紐づけなら進めました。
まずは3年間実施しましょう、ということになりましたが、その展開フローがこちらです。
現状分析し、経営方針や制度との繋がりを持たせた計画を策定したら、それを社内周知しました。ここでは社長がまずメッセージを出し、人事も発信しました。その上で施策を進め、一定期間後に効果検証をしました。定量的・定性的データをもとに、取り組みによって変化したこと、変化しなかったこと、その理由を分析しました。その分析結果をもとに次の打ち手を考えてまたこのステップを展開していくということを現在も継続中です。
具体的な施策はこちらです。
2019年にご相談を受け、2020年から3年間、伴走しました。
この取り組みによって得られた成果(手応え)がこちらです。
まずは、上下の関係についてです。
メンバー(部下)に聞いたところ、48%が「話しやすくなった」と回答。
管理職(上司)に聞いたところ、54%が「部下との関係性が良くなった」と回答。
「変わらない」と回答した人の多くが、その理由記述欄に「元々関係性が良かったから」と書いていました。
次に注目すべき点は「業務への意欲」「成長への意欲」です。「向上した」と60%以上の人が回答しています。
「離職率」も下がっています(34.4%⇒25.7%)。
「管理職候補者」が18名生まれました。女性の管理職候補者が出たのは想定以上でした。
「職種転換」した女性が19名出ました。こちらは営業アシスタントから営業職への転換が15名、開発のアシスタントから別部署への転換が5名でした。職種転換は2015年から推奨していましたが、2019年まで転換した人はゼロでした。キャリア自律を推進することで、結果的に女性活躍推進も進みました。
「管理職候補者」や「職種転換者」を輩出できたポイントは、自分たちのチャレンジ行動や業務改善案を役員の前でプレゼンする場を設けたことです(プレゼンした改善案のうちプロジェクト化したものがいくつかありました)。
一方、一連の取り組みをネガティブに捉えている人も一定数います。人事総務部と私どもの洞察は、ネガティブな人の共通傾向は「変化を望まない」ということです。
このような考察も踏まえ、更なる変革に向けて新たな課題を設定して2023年度の取り組みを継続しています。
事例紹介は以上です。
4.まとめ
キャリア自律の落とし穴にはまることなく、キャリア自律を推進するためには、三位一体で取り組むことが大切です。
日本の雇用状況、企業独自の歴史、組織特有の体質(考え方と行動のクセ)があるからこそ、三位一体で取り組むことが効果的であり、新常識の創出へとつながります。
いきなり三位一体で走り出すのは難しいという企業も多いかと思います。
「うちの組織には難しい」と諦めたら、そこでお終いです。
できるところから着手し、少しずつ三位一体となるように持っていくことを考えていきましょう。
私どもは、お客様と伴走しながら三位一体を実現し、その企業様ごとに最適な方法を発見することを大切にしています。ご相談事がありましたら、お気軽にお声掛けください。