なぜ営業力強化はなかなかうまくいかないのか②
~マネジメントが結果管理のみだから~
目次
営業のプロセスマネジメントを機能させるにはどうすればいいのか?
顧客ニーズの多様化や高度化から、営業のマネジメントに「プロセス管理」を導入する企業が増えています。しかし慣れ親しんだ「結果管理」からの移行は容易ではありません。そこには、どんな障害があり、またそれをどう乗り越えたらいいのでしょうか?
営業のプロセスをマネジメントするとはどういうことか?
まず、昨今言われている「営業のプロセス管理」とは、何をどうマネジメントすることなのかについて整理しておきたいと思います。
- 過去:1日あたりの訪問件数等を決め、それを部下に守らせる
- 現在:営業活動をプロセスに分けて、早期に問題や原因を分析し、好結果につなげる
例)営業活動をアプローチ⇒リサーチ⇒提案⇒クロージングの4つのプロセスに分ける
どちらも売上目標をにつながる行動を細分化し、それを目標化してデータを取ることは同じです。違うのは、そのデータを「部下の監視」に使うのか、「自分の営業活動の問題解決」に使うのかという点です。昨今言われている「プロセス管理」は、「勘や経験」だけに頼らず、「データ」を活用して問題を見つけ、行動を変えていこうという営業のマネジメントを指しています。ちなみに、さきほどあげた訪問件数で言えば、
- 過去:訪問件数5件/日を守らせる
- 現在:訪問件数を増やせば提案件数や成約数が増えるのかをウォッチして、仮説検証する
という風にイメージすると分かりやすいと思います。
営業の「プロセス」をマネジメントするとなぜ良いのか?
以下の2つが考えられます。
- より良い問題の発見とその解決
- スピーディーなアクション
つまり、「思いつき」や「弁解」に囚われず、幅広いデータから多角的な原因の検討が可能になり、しかも月末や期末の「売上」という最終結果を待つことなく、問題への対処を、仮説検証サイクルを廻しながら、スピーディーに行えるというこの2点がプロセス管理のメリットです。
営業の「結果管理」のマネジメントの功罪とは?
営業の「プロセス管理」の対極にあるのが「結果管理」です。結果管理は「売上」などの結果で評価するマネジメントのことです。途中のプロセスに問題があっても、「合計OKすべてOK」という考え方で、問題が未解決のまま先送りされ、あとで大きな問題が起きて、結果的に業績を悪化させることが多いマネジメントでもあります。
にもかかわらず、今まで営業のマネジメントの主流であり続けたのはなぜでしょうか? 結果管理を「功と罪という視点」「マネジャーとメンバーという立場」の2つを組み合わせて考えてみると
【マネジャー】
<罪>プロセスは部下任せ。未達成の原因が「根拠のない弁解」でも信じるしかない
<功>目標さえ課せば、あとは本人次第で手間要らず。自分はプレイに専念できる
【メンバー】
<罪>プロセスで起きた問題への対処は、「勘と経験」頼みなのでやがて行き詰る
<功>自分の努力次第で能力向上も成績も決まる。それがやり甲斐でもある
このように、結果管理は、変化の少ないビジネス環境、営業の離職が少ない職場環境においては「功」の部分が勝ち、「罪」の部分は目立たず、営業マネジメントの王道だったと言えます。さらに付け加えれば、「個別対応」を求められるというその仕事の特徴から、「きめ細かく管理すべきではない」「画一的な方法による分析は無駄」という営業マネジメントへの意識も根強く、結果管理を下支えしてきたと言えます。 しかし今、環境変化により、逆に「罪」の部分がクローズアップされてきています。それはなぜなのでしょうか?
なぜ今、営業のマネジメントは「プロセス管理」を必要としているか?
では営業のマネジメントを「結果管理」から「プロセス管理」へと変えなければいけない理由は何でしょうか?それは以下のような環境の変化があるからです。
- 営業の離職率が高まった。メンバーの入れ替わりが激しく、その価値観も多様化した。
- 顧客は長期的な取引を前提にしなくなった
- 顧客ニーズが高度化しチームで対応するため、営業プロセスの明示が必要になった
つまり「結果管理」は「自分で腕を磨く。自分一人で完結させる」という営業スタイルを是とする環境においては最適でも、「限られた人数で他部門と連携しつつ、顧客の問題解決をしなければならない」という環境では通用しにくくなったということです。
よって、今、プロセス管理のための仕組みやツールを現場に導入し、マネジメントを結果管理からプロセス管理に変える動きが起きているのです。しかし、一旦成功を収めた結果管理というマネジメントを変えるのは、簡単ではありません。今、多くの企業が、「プロセス管理が定着しない」「プロセス成果の見える化が出来ていない」「結果管理に逆戻りしてしまった」等の悩みを抱えていると聞きます。
営業のプロセスマネジメント定着のための留意点
「結果管理」に逆戻りせず、「プロセス管理」を定着させるには、以下の「思考の癖」や行動を変える必要があります。
①上司に指摘されたプロセス成果を達成さえすれば良いという意識
「案件化率(=安件化数÷提案数)」が低いと指摘されると、それを向上させるために提案の中身を改善することだけに固執してしまう人がいます。「リサーチは適切だったのか」「会って話を聞く人が適切だったのか」など他のプロセスのデータまで見て問題の原因、及びどこを改善すればいいのか?というように、広い視野で仮説が立てられないのです。
これは「結果管理」によって身に着いた、「指摘されたことを目標とし、今までのやり方でそれを何とかしようとする」意識が原因です。データはあくまでも指標であって、改善策ではありません。データをきっかけにして、「幅広く原因を見てよく考える(仮説を立てる)」という習慣を持てるようになるまで、対話などを通じて、粘り強く指導する必要があります。
②「営業活動を画一的なプロセスで捉えるのはおかしい」という意識
プロセス管理への反対意見として、「商談の成否の原因は無数にあって、一言で表現できない」「プロセスも様々で整理できない」・・・というのがあります。このような抵抗を排除するには、
- 営業部隊がプロセス作成に参加し、できるだけ現場を踏まえたものにする
- 負担を軽減する、あるいは客観的な視点を得るためにも、営業以外のメンバーも参加してプロセスを作る
以上が机上の空論にならずかつ客観性、汎用性を持つプロセスを作成するポイントです。
③「営業は結果がすべて」という意識
「プロセス分析によって、営業活動を修正し、取り組んだら売上がこれでだけ増えた」という「実績」を糧に、営業プロセスの改善が行われ売上が増えていく・・・これがプロセス管理です。
最初からこういう状態ならば、「プロセスの目標を達成することが目的になってしまい、売上が未達成(結果への執着心が薄い)」というようなことにはなりません。しかし、問題はそこへ行くまでの過程です。
結果管理が根深く浸透し、意識または無意識的にプロセス管理に関心がいかない時は、
「合計OKすべてOK」とも言うべき「売上結果」での人事評価を止める
ことも必要です。
「売上結果での人事評価」は、皆の納得がとり易く、一時的なモチベーションアップにはなります。しかし、一方で確実にプロセス管理浸透やチーム営業の障害にもなります。その結果、環境変化への対応の遅れを招き、業績の低迷傾向からの脱却を遅らせます。
また、同時に、
「プロセスをこう変えたらこう売り上げが変わった」という実績を早く出す
ということも重要です。なぜなら、「実績が営業の行動」を変えるからです。