なぜ営業力強化はなかなかうまくいかないのか③
~顧客の購買プロセスや心理が可視化されていないから~
目次
「バイヤーイネーブルメント」とは何か?
バイヤーイネーブルメント(Buyer Enablement)とは「お客様の購買がスムーズに進みかつお客様が正しい意思決定ができるよう支援すること」です。それを営業担当者だけではなく、デジタルでも実現できるか?が、今の時代、重要な課題となってきています。
バイヤーイネーブルメントが営業のマネジメントで着目されるようになった背景
着目されるようになった背景には、「オンラインで情報収集することを望む購買担当者の増加」があります。
2017年5月に実施された、日経BPコンサルティングのアンケートでは、業務に役立ちそうな情報を探すときの情報源として閲覧する媒体は、「企業Webサイト」がトップという調査結果が出ています。(日経BPコンサルティング:https://consult.nikkeibp.co.jp/)
今まで、この手のデータはアメリカでのものが多かったため、日本では「対岸の火事」的な見方をする方も多かったと思いますが、日本においても「担当営業からの情報取集」から「オンラインでの情報取集」という変化が起きてきているのです。
そうなってくると、顧客接点のマネジメントも変わらざるを得ない・・・ということで、バイヤーイネーブルメントが着目されるようになってきていると考えられます。
ちなみに、ミレニアル世代(1989年~1995年に生まれ、2000年以降に成人した人たち)や、それ以上にデジタルスキルの高いZ世代(1996年~2012年頃に誕生した人たち)が購買の決裁に大きく関わるようになれば、営業担当者からの情報収集は廃れ、オンラインによる情報収集一本になるだろうとの意見も出ています。
特にBtoB営業マネジメントで「バイヤーイネーブルメント」が注目されている
購買者には企業(BtoB)と個人(家庭)がありますが、一般に企業の方が、「購買に至るまでのプロセスが複雑だ」と言われています。「家庭の方が単純だ」と言うわけではないのですが、その背景には「企業の方がより多くの関係者が購買に絡む」という事実があります。その結果、以下のことが起こり、購買がスムーズにいかないのです。
- 「なぜ購買するの?本当に必要?」という購買理由(課題)がなかなか決まらない
- 「で、どうするの?」という解決策がなかなか決まらない
- 「どうせ買うなら、こうしてよ!」という要求や仕様がなかなか決まらない
- 「で、どこに何があるの?どこを使うの?」という業者の選定がなかなか決まらない
一旦、決まったと思ったらまたそれが覆る、それでまたミーティングをする・・・この複雑なプロセスからの解放を望む声を、我々は無視できなくなってきているのです。従ってBtoB営業のマネジメントでは、特に昨今バイヤーイネーブルメントが注目されているのです。(ちなみに、この「購買プロセスの複雑さ」は洋の東西を問わないようです)
営業か?デジタルか?バイヤーイネーブルメントのマネジメントにおける2つの対象
バイヤーイネーブルのマネジメントには対象が2つあります。
- 営業担当者による顧客の購買支援
- デジタルによる顧客の購買支援
バイヤーイネーブルメントを「デジタルによる購買支援のことだ」と捉える人がいますが、顧客の購買支援自体は営業担当者も行っています。それが今、なぜデジタルによる購買支援のことだと捉えられてしまうことが多いかというと、営業担当者による購買支援に対して、デジタルで行う購買支援に以下のような優位性があることが明らかになってきたからです。
- 自分のタイミングで、購買に必要な情報を得ることが出来る
- 場所を選ばず、購買に必要な情報を得ることが出来る
- 提供される情報に一貫性がある
以上のような優位性が、企業内の複雑な購買プロセスをスムーズに進める上で役立つことが顧客に認知されてきたがゆえに、「バイヤーイネーブルメントと言えばデジタルによる購買支援のことだ」という認識が広まっているのです。 営業マネージャーとしては、今後営業による購買支援が無くなることはないにせよ、デジタルによる購買支援もマネジメントをしていかないと、顧客との信頼関係が築けないということになりかねません。
営業マネージャーがバイヤーイネーブルメントのマネジメントで行うべきこと
以上を踏まえると、営業マネージャーの行うべきバイヤーイネーブルメントのマネジメントは以下がそのポイントとなります。
1.顧客の購買プロセスを把握しているか?
顧客が、「今は売り込まれたくない」「今は営業担当者のバイアスのかかった情報は要らない」などの心理の時に、営業担当者が支援を行おうとすると、支援ではなく、購買の邪魔をしていることにもなりかねません。
営業マネージャーがまず把握しなければいけないのは「どの段階からデジタルによる購買支援を営業による購買支援に切り換えるかのタイミング」です。
そのために顧客の代表的な購買プロセスを共有化し、仮説検証により、その最適なタイミングを発見することが営業マネージャーに求められるマネジメントです。
2.デジタルによる購買支援をマネジメントする
メールやWebによる購買支援・・・「いったい何を用意すればいいの?」「どうやって提供すればいいの?」と課題がたくさんあるように見えますが、最も重要な課題は「購買プロセスのスムーズかつ正しい意思決定を支援するのに役立つ情報をきちんと用意できるか?」に尽きると思います。
前述の日経BPコンサルティングの調査でも企業から送られてくる「メルマガ」の評価はすこぶる低く、その「内容の見直しが重要なテーマになってきている」と伝えています。
以下に、購買プロセス支援に役立つ情報の切り口を挙げますので、情報コンテンツを作る際の参考にしていただければ幸いです。
- 顧客が現在の状況を入力すると、それを分析し、整理してニーズを明確化できる機能購買における「落とし穴」「留意点」を示す顧客へのアドバイス機能
- 現状使用している商品・サービスについて診断し、課題を提示する機能
- 自社と競合との差異を独自の切り口で伝え、顧客の比較検討に貢献する機能
- 「お試し」あるいは「事例紹介」等、顧客が自社への導入をイメージできる機能
- 顧客が社内で議論を効果的、かつ効率的に進めるための検討視点やポイントの提供機能
以上を1.の購買プロセスのどのタイミングで提供すると良いか?の仮説検証が営業マネージャーの腕の見せ所です。
3.営業担当者の営業力向上(「クロージング力」の強化)
よく営業マネージャーは営業担当者の顧客への訪問回数増加のために、他の業務の生産性を上げることを部下に望みますが、顧客自身は訪問回数の増加を望んではいません。顧客が望んでいるのは、「自分が望むタイミングでの訪問」です。デジタル対応を望んでいる顧客にはデジタルで対応する・・・これがまず1つ目の営業力向上のためのマネジメントです。
では、顧客が購買の過程で、デジタルではなく、営業担当者と直接話したいと思うのは主にどのタイミングなのか?それは、購買プロセス後半での「ためらい心理」のような、理性だけでなく感情対応を伴う、個別対応を必要とする時です。このような時は、営業担当者の対応力(連携も含めて)が物を言います。
この能力の「育成」が、営業マネージャーに求められる、もう一つの営業力向上のためのマネジメントです。