人事評価とは何か③
~評価制度の変遷【成果主義】~
成果主義が「最終結果さえ出していればそれで良い」という誤解を生んだのは、その本質が「実績重視・貢献重視」の考え方にあるという理解が、企業に足りなかったためと言えます。
- 人事評価は経営課題の変遷とともに変わってきた
- 業績に応じて賃金原資を上下させる~成果主義~
- 「成果主義」が機能する前提条件とは
- 「成果主義」は「実績重視」であり「貢献重視」の考え方のことである
目次
人事評価は経営課題の変遷とともに変わってきた
「人事評価」は「人材マネジメント」の手段のひとつです。
ですからどのような考え方で人をマネジメントするかにより、その手段である「人事評価」も変わってきます。またどのような考え方で人をマネジメントするかは、当然その時々の「経営課題」の影響を受けます。
つまり、「経営課題」が変わると、「人材マネジメントの基本的な考え方」が変わり、「人材マネジメントの基本的な考え方」が変わると、「人事評価」も変わると言えます。
多くの方がご存知のように戦後我が国の「人材マネジメントの基本的な考え方」は、
「年功主義」→「能力主義」→「成果主義」
という風に変遷してきました。
この「人材マネジメントの基本的な考え方」の変遷の裏には、その時々の解決すべき「経営課題」がありました。例えば「大量生産」が経営課題であれば、その課題解決策として「年功主義」が「人材マネジメントの基本的な考え方」として採用され、その実現手段として、勤続年数や年齢を評価する人事評価制度が採用されたわけです。
昨今、評価制度の見直しが叫ばれていますが、「人事評価」の変遷とその背景にあった「経営課題」、課題解決に必要だった当時の「人材マネジメントの基本的な考え方」を振り返ることで、今後自社の評価制度のどこをどう見直すかのヒントが見つかるのではないでしょうか?
なぜなら、このように過去の「人事評価」の変遷を「経営課題」の変遷とセットで振り返ることで、自社の今後の「経営課題」は何か?その達成ための自社の「人材マネジメントの基本的な考え方」は何か?そしてそれを促す「人事評価制度」にするために、現在の制度のどこをどう変えるのか?あるいは変えないのか?が見えてくるはずだからです。
ところが、そうではなく「年功主義」→「能力主義」→「成果主義」という人材マネジメントの基本的な考え方の変遷を、「評価制度の進化の過程」と受け止めてしまうと、今後の自社の評価制度見直しのヒントにはなりません。
なぜなら、そう考えてしまうと、「成果主義」が最もすぐれた人材マネジメントの基本的な考え方となり、すべての会社が成果主義で評価を行えば人材マネジメントがうまくいくということになってしまうからです。
確かに、「年功主義」→「能力主義」→「成果主義」という変遷の中で、評価制度の進化が無かったわけではありません。しかし、最新のもの、つまり成果主義を導入すれば万事上手くいくというが、評価制度を見直すということイコールではありません。
少しオーバーな言い方をすれば、自社の「経営課題」によっては、「能力主義」という、70年代のオイルショックの頃に生まれた「人材マネジメントの基本的な考え方」に基づく「人事評価制度」が今の我が社には必要だ・・・という場合もあるかもしれません。
よって、評価制度の見直しを図るときにこそ、「年功主義」「能力主義」「成果主義」の3つを、それぞれの背景にあった経営課題とセットで、振り返っておくことが重要なのです。
業績に応じて賃金原資を上下させる
~成果主義~
1985年9月のプラザ合意後の円高不況、バブル崩壊、そして国際的な競争激化という環境の中で、企業は、業績の上昇だけでなく、その急激な落ち込みも経験しました。
その結果、それまで「年齢」や「勤続」という「年功要素」や「能力要素」を基本とした「賃金原資が徐々に上がる」という考え方で人事マネジメントを行うことには無理があり、「社員の賃金そのものも業績に連動して変動させていかなければならない」という考え方で人事マネジメントを行う必要性を多くの企業が感じるようになったのです。
その結果「業績」や「成果」というものが人事評価上とても重要なものとなっていきました。これが成果主義の起源です。
「成果主義」が機能する前提条件とは
企業の業績に連動して賃金原資を上下させる考え方であるものの、「成果主義」はその企業の業績が、社員の努力で、又はチャレンジによりが良くなる可能性があるという前提条件のもとに成り立つ考え方であることを知っておかなければなりません。
構造的な問題で自助努力しても業績回復など見込めないような状況では、成果主義云々の前に、賃金の一律ダウンを役員・社員が受け入れなければならないということもあります。「先行き不透明」「不景気」なときは「成果主義」で人材をマネジメントする・・・と短絡的に考えてはならないのです。
「成果主義」は「実績重視」であり「貢献重視」の考え方のことである
人事評価の「成果主義」における「成果」は、いわゆる「業績」(売上や利益)といった最終成果と、最終成果を上げるための「プロセス成果」の両方を指しています。ご存知の方も多いと思いますが、「年功主義」や「能力主義」と言われていたころの人事評価にも「成果」という概念は既にありました。一般的には「年功主義」「能力主義」「成果主義」のどの考え方に基づいて人事評価をするにおいても、「成果」という概念に違いはないはずです。
しからば、わざわざ「成果主義」と言っているというのはいったいどういうことなのでしょうか?「人事評価全体に占める成果に対する評価のパーセンテージが高いと成果主義の人事評価と言える」ということでしょうか?それならば何パーセントからそう言えるのでしょうか?
ここでもう一度思い出していただきたいのが、「成果主義」は「人材マネジメントの基本的な考え方」の1つであるということです。
ということは、「成果主義」に基づいて作られた評価制度は、その各所に「成果主義」の考え方が反映されることになります。例えば「能力」の評価でも「行動」をよく見て能力の有無を判断する、よくある「情意考課」でも実際の職務上の行動事実で評価をする等、「実績」を重視します。
つまり、「成果主義」というのは、見方を変えれば「事実」つまり「真に業績に貢献していること」にできるだけフォーカスをして評価しようという考え方と言えます。
従って「成果主義」はよく誤解される「最終成果」のみを評価すべきだという考えではなく、「最終成果である業績への連なり(貢献)をきっちりと見ていく」という考え方に他ならないことを忘れてはなりません。