研修効果定着のカギは、現場上司の「巻き込み」にあり ~現場巻き込み型の研修で効果を倍増させよう~
研修が“やりっ放し”になっていないか? 研修で学んだことが現場で実践されているか?
研修企画担当者であれば、誰もが感じるテーマだと思います。この「研修効果の定着」と
いうテーマは、研修投資を決済する経営者の問題意識でもあります。このレポートでは「研修効果定着のカギは、受講者の上司にあり」と捉え、「いかに現場
の上司を巻き込むか?」その考え方と方法についてお伝えします。
研修で学んだことの現場実践と継続促進にお役立てください。
目次
1.「研修効果の定着」という古くて新しい問題
①建て付けの良くない研修をオンライン化すると・・・
研修担当者と「オンライン研修の効果をいかに高めるか?」という話をしていたら、はじめの
うちは、Zoomの機能(例:チャット、ブレイクアウトセッション等)が話題の中心でしたが、
話し合いを進めるうちに、よりと根本的な問題に行きつきました。
✓オンライン研修が普及する前から引きずっていた「研修効果の定着」問題に向き合わずに
テクノロジーの話をしても上滑るだけではないか。
✓元々の建て付けが良くない研修をオンライン化しても、余計に効果のない研修ができ上がる
だけではないか。
そんな問題意識もあって、今回は「研修効果の定着」という古くて新しい問題について考えて
いきたいと思います。
②研修を活かすも殺すも上司の関わり次第
受講者上司の何気ない態度や不用意な一言が、研修効果を損ねている場合があります。
下記は全て実際にあった話です。
〔研修参加前〕
・「A君、久しぶりの研修だね。仕事のことは忘れてリフレッシュしてきなさい」
・・・この一言は「研修と仕事は別物」というメッセージを送っている。上司は労いの気持ちで
言っているのかもしれないが、こう言われては研修で学んだことを仕事に活かそうという意欲
が削がれる。
・「B君、明日から研修だったよね。何の研修だっけ?」
・・・この上司は部下が受ける研修の目的や内容を理解していない。この一言で、上司の無関心
さが受講者に伝わり、学習意欲は盛り下がる。
〔研修参加後〕
・部下から研修報告書が上がってきてもスルーして読まない。あるいは目を通しても「研修
で学んだことを今後の仕事に活かしてください」と型通りのコメントをするだけで具体的な
中身がない
・・・上司の関心の無さが部下に伝わっている。
・部下が改善行動を取り始めても気づかない。気づいたとしても声を掛けることもない
・・・せっかくの「変化の芽」が葬り去られる。改善行動が続かず、元の木阿弥に。
これらは一例ですが、上司の影響力は絶大です。ちょっとしたことで、研修効果が台無しに
なっているとしたら、何と“もったいない”ことでしょう。
2.「研修効果の定着」に関するフレームワーク
研修効果の定着について考える際、押さえておきたいフレームを2つ紹介します。
①40:20:40の法則
研修効果の研究家ロバート・ブリンカホフ教授(ウェスタン・ミシガン大学)が
「効果のない研修プログラム」の原因を調べたところ、下記のことが分かりました。
研修前 | 研修中 | 研修後 |
40% | 20% | 40% |
事前の準備不足 | 研修自体の拙さ | 現場実践時の障害 |
〔例えば〕 ・研修の狙いが受講者や上司に伝わっていない ・上司から受講者へ期待が伝わっていない ・受講者のニーズが十分に把握できていない |
〔例えば〕 ・研修開催時期や場所が不適切 ・教材が受講者の課題にマッチしていない ・講義やファシリテーションが拙い |
〔例えば〕 ・学習内容と仕事とのつながりが不明 ・上司からの支援やフィードバックがない ・上司が研修と矛盾した指導をしている |
研修効果が低い(研修と仕事の乖離がある)原因の8割は、研修前の準備不足と研修後の
フォローの拙さにある、ということです。
②三位一体モデル
研修を受講して「気づき」を得て、現場で新たな行動を起こそう(やり続けよう)とした
時に立ちはだかるのが「現場実践のカベ&継続のカベ」です。例えば・・・、
□ 上司が研修内容を知らない(関心がない)
□ 上司から「研修課題もいいが、今月の業績は大丈夫なんだろうな」と言われる
□ 研修課題に取り組み、成果を上げても承認の場が無く虚しい気持ちになる。
受講者が研修で「その気」になって行動を変えようとしても、上司の支援がなく、チャレ
ンジしても報われない制度や風土では、行動変容は一過性のものになってしまいます。
そこで大事になってくるのが「三位一体」という取り組み体制です。
や挑戦を奨励する制度・風土)」が連動していることです。
受講者本人の自助努力はもちろん大事ですが、本人に任せっ放しにせず、組織を挙げて育成
に取り組む必要があるということです。
*MP版研修効果向上マトリクス
「40:20:40の法則」と「三位一体モデル」を掛け合わせたマトリクスを紹介します。
これは、マネジメントパートナー社オリジナルのフレームです。
研修前 | 研修中 | 研修後 | |
受講当事者に対して | |||
支える人(特に上司) に対して |
|||
組織環境(仕組み・ 制度)の活用・整備 |
「研修後の現場実践と継続(研修効果の定着)」のために、どのタイミングで、誰に対して
どんな策を講じたら良いか? を考える際に便利なフレームです。貴方が企画している研修
の場合、どんな手が打てるか? 是非考えてみてください。
3.いかに現場の上司を巻き込むか
研修効果に大きな影響がありながら、なかなか手が付けられていない領域が〔A〕と〔B〕、
つまり「研修の前後で、いかに上司を巻き込むか?」という問題です。
研修前 | 研修中 | 研修後 | |
受講当事者に対して | |||
支える人(特に上司) に対して |
[A] | [B] | |
組織環境(制度・仕組み) の活用・整備 |
「巻き込む」と言っても、具体的にどうすればいいのか?
巻き込まれる側(現場の上司)は忙しいし、人材育成部署とは違って、育成や研修に関して
詳しいわけでもないし・・・。研修企画担当者のお悩みがここにあります。
このお悩み解決のヒントになるノウハウを4つ紹介します。
現場上司の心中を察すると、下記のような心理があると思います。
「このクソ忙しい時に、部下を研修に参加させろだと?」「人事は現場のことをどれだけ
分かって研修を企画しているのか?」「しかも、その研修に協力しろだと?」「どれぐらい
負荷がかかるのか?」等。
研修企画者としては、このような現場心理を分かった上で対処していきましょう。
①「現場の仕事に役立ちそうな研修だな」の予感
現場の仕事とかけ離れたお勉強ではなく、現場の仕事とリンクした研修であることを説明
します。例えば、
1.「今なぜ、この研修を実施するのか?」人事の都合ではなく、経営の意図・現場の課題
と絡めて説明する
2.研修での演習(シート作成、討議、ロールプレイ)は仕事そのものを題材にする
3.研修にしっかり取り組むことが、現場の仕事の実行そのものであり、上司の方針実現に
直結するという建て付けの研修であることを説明する
現場の上司に、「現場の課題解決に役立ちそうだな。私の方針実現に役立つなら、部下が
この研修に参加するのも悪くないな」と思ってもらえるよう説明を工夫します。
②現場の声を入れて研修企画をバージョンアップ
研修は、「①テーマ ②対象者 ③内容 ④運営 ⑤開催環境 ⑥現場受容度」のマッチングが
重要です。⑥は、現場の協力が不可欠です。①②③④⑤は、研修企画者が考えることで
すが、これらを全て決めて現場に通達するのではなく、②③⑤はタタキ台として現場に
説明し、現場の意見・要望を聴かせてもらい話し合って決めていくというやり方は有効
です。例えばこんな感じです。
「今回の研修は、こんな狙いの、こんな建て付けの研修です。対象者や内容、開催時期
はこんな案を考えていますが、いかがでしょうか?」と。
すると「意図は分かった。そういうことなら、S君よりもT君を先に受講させたい。
開催時期は〇月よりも△月の方がベター」等のリクエストが出てきます。
大事なことは「人事から押し付けられた研修」ではなく、「自分たち(現場)の意見が
反映された研修」という受け止め方をしてもらえるように話を持って行くことです。
③現場の負荷を軽くする工夫
「研修参加前に部下に声を掛けてあげてください」「部下が研修から戻ってきたら対話
してあげてください」と人事からアナウンスがあっても、現場の上司としては、「何を
話せばいいのか?長時間のミーティングは勘弁してくれ」という心理があると思います。
研修企画者としては、このような点を考慮して「対話の手引書」を用意しておくと良い
です(負荷は軽く、質は落とさない)。
〔対話の手引書:研修参加前〕記載内容(例)
研修開催案内を読み、研修の目的・内容を理解した上で・・・、
・「こんなことを学んできてほしい」と伝えた上で部下の考えを聴く
・「学んだことを、受講後はこう活かしてほしい」と伝えた上で部下の考えを聴く
・「受講後は、こんなサポートをしていくつもりだ」と伝えた上で部下の話を聴く
*メールで済まさず、30分程度対話する(オンラインor対面、どちらでもOK)
*「研修はイベントではない。日頃の仕事ぶりを振り返り、変えるべき点は変える
(アップデートする)場である」ことを、受講者も上司も共通認識にしておく
*部下の研修報告を聴く日時を決めておく(アポイントを取っておく)
4.まとめ&「現場巻き込み型研修の取り組み事例」紹介
研修効果に最も大きな影響力を持つと言われる「受講者上司の巻き込み策の具体的方法」
についてお伝えしました。このような方法論が効果を産むためには、研修を企画する側
(人材育成部署)のスタンスが重要です。現場巻き込み型研修を成功させる3大スタンス
を共有しておきましょう。
①「こちら(研修企画者)の出方を変えることで、相手(現場上司)の動きを変える」と
いうスタンスで、現場の上司と関ろう。
②研修企画者と現場は敵対するものではない。「自分たちの会社を一緒に良くしていく
同志」というスタンスで、現場と向き合おう。
③研修企画者は現場の声を聴こう。「この研修企画者は聴く耳を持っている」という印象
を持ってもらえると、その後の巻き込み策がスムーズに進む。
研修の“やりっ放し”を防ぎ、費用対効果を高めるカギは、「現場上司の巻き込みにあり」
というお話をしてまいりました。このレポートの中から、何かひとつでも実践できること
に取り組んでみてください。
「他社ではどんな取り組みをしているか 事例を知りたい」という方は下記をご覧ください。
〔現場巻き込み型研修の取り組み事例紹介〕
東証一部上場の製造業(社員数700名)の人事企画室 部長をお招きして、オンライン
イベントを開催します(無料)。
*このイベントに参加することで、下記2つが同時に手に入ります。
① 受講者上司を巻き込む実践ノウハウ
② 現場リーダーの育成ノウハウ
・2021年 8月24日 10:30~12:00
・2021年10月14日 10:30~12:00
*詳しくは、こちらをご覧ください。
⇒中堅企業の「チェンジリーダー育成」事例に学ぶ 効果的な研修プログラムの仕掛け方
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実践者の生の声が直接聞ける、またとない機会です。
研修の“やりっ放し”を防ぎ、費用対効果を高める一助に、是非お役立てください。
株式会社マネジメントパートナー
人材・組織開発コンサルタント 橋本 良広