営業活動を革新する「5つの基本」その3:~お客様を知るための視点~
皆様こんにちは、株式会社マネジメントパートナーの人材・組織開発コンサルタント、
関 教宏(たかひろ)です。
前回まで、環境変化に左右されず業績を上げ続ける営業のものの見方(考え方)=
「5つの基本」のうち、「役割と責任の認識」「お客様の理想像実現を心から願うスタンス」
をご紹介してきました。
今回は、3つ目「お客様を知るための視点」についてお伝えします。
目次
1.「お客様の3C」を整理し、お客様の現状を知る
市場において自社の置かれている状況を整理するためのフレームワークに3C分析という
ものがあります。
3Cは「Company(自社)」「Customer(顧客)」「Competitor(競合)」それぞれ
の頭文字をとったものです。
営業活動において3C分析をすることは、お客様が欲する価値は何か、その中でも競合
には提供できず、自社ならば提供できる価値は何か(ユニーク・セリング・プロポジション
=USP)の仮説を立てる上で非常に有効です。
実務においてこのフレームワークを用いる際のポイントは
「USPを考える前に、お客様の3Cを整理する」ことです。
お客様の3Cとは、「お客様のお客様(BtoCならばお客様の関係者=例えばご家族等)」
「お客様の競合(BtoCならば脅威になりうる外部環境=例えば法改正、補助金等)」の
状況を整理することで、お客様(企業及び対象となるキーパーソン)が描いている理想像の
背景や、理想像実現に向けてお客様がすべきこと、既に取り組めていること、できていな
いことを推測するという意味です。
*お客様の理想像そのものについては、前回も触れましたが「IR情報、業界紙、アンケート、
生の声」などを情報収集した上で仮説を立てることが有効です。
こうして、思考の起点を「自社に出来ること」から「お客様の理想像とその実現ポイント」
に意図的にシフトさせることで、「売るモノありき、自分の都合ありきのスタンス」から
脱却したUSPを作り上げるのです。
ところが、お客様の3Cのみでは「お客様の理想像実現を心から願うスタンス」を体現する
には不十分です。
なぜならば、お客様の3Cはあくまでも「外部環境から導き出したお客様の課題」に過ぎない
からです。
お客様からしてみれば、いかにも理路整然と「置かれている環境がこうだから、御社はここ
に取り組むべきです」などと言われたところで、「ウチのことを何も知らないクセによく
そんな正論を言えるな」と、感情的に“No”が出る可能性が高いのです。
当たり前の話ですが、私たち営業が商売をするお相手は血の通った生身の人間です。
AIやセールステックがどれだけ進化しようがこの原則は変わりません。
ではどうすれば、お客様に「本当にウチのことを考えてくれた提案だ」と心を開いていただ
けるか? そのために必要なのが、お客様の「内情」と「想い」を知るという視点です。
2.お客様の内情を「業務プロセス」と「財務」の視点で理解する
BtoB、BtoC に関わらず、お客様が抱えている内情は千差万別です。
結局のところ、個別事情についてはご本人にお話を訊く以外に本当のところを知る術はあり
ません。
一方でお客様は、どんな営業に対してもご自身(自社)の内情を明け透けにお話ししてくれる
訳ではありません。
「この営業は本当にウチの業界や状況を理解してくれている」という安心感があってこそ本音
を話してくれるのです。
ここでは、お客様の内情を正しく理解するために営業がどのような切り口でお客様の内情を
整理すべきかお伝えします。
1)業務プロセス
ここでいう「業務プロセス」とは「仕事の進め方及び体制」という意味です。
下の図をご覧ください。
これは弊社がお客様のビジネスを理解するために用いている「経営のフレーム」です。
外部環境変化に適応するために、お客様は自社のビジョンに立脚した戦略・方針を掲げます。
変化への適応ですから、動き方を変え、変化の方向でマンパワー、人的能力を向上させる
必要があります。
さらに、内部のメンバー同士、部門間の連携、外部との連携の形も最適なものにすべく
オペレーション(仕組みや制度、システム等)に改廃を加えます。そうして動きを変えた
結果が経営成果です。
お客様の業務プロセスを理解する時にはこのフレームを用いて整理すると便利です。
このようにして現状を整理し、かつお客様の3Cと紐づけることで、お客様が理想像を実現
する上ですべきことは何か、現実を見た上で整理することになります。
なお、BtoCのビジネスにおいては、ここの部分は、この後にお伝えする「財務の視点」
と合わせて、シンプルに「お客様の個別事情」と読み解くとよいでしょう。
投資の促進要因、阻害要因となる関係者との関係性や優先している事柄などを読み解いて
いくことが重要です。
2)財務の視点
財務というと数字の羅列で身構えてしまうという方は少なくないと思います。
財務分析は非常に深淵な世界であり、それだけで食べている方もいるくらいです。
ここではそのような詳細を述べるつもりはありません。
あくまで営業として、財務の視点で最低限見るべきところをお伝えします。
最低限見るところとは「お客様が昨年度、一昨年度と比較したとき、売上・利益がどのよう
に変動しているか」です。
財務を齧ったことのない方でも「増収増益、増収減益、減収増益、減収減益」という言葉を
聞かれたことはあると思いますが、ここで申し上げたいのはそのことです。
お客様の売上と営業利益(本業での儲け)について、以下の4パターンで過去と今とを比較
することで、お客様の現状理解を深めていきます。
*なお、情報源については、上場企業であれば有価証券報告書、ホームページなどで発信
されています。非上場企業においては、決算公告や普段からの活動の中での情報収集という
手段になります。
営業として重要なことは、先ほどお伝えした「お客様の3C」や「業務プロセス」の整理に
合わせ、財務の視点を加えることで、お客様の投資の優先度や、目指す理想像実現のスピード
感を探ることです。
もちろん、この切り口でお客様のことを視たところで、全てを把握することは難しいです。
分からないことは、お客様に訊けばよいのです。
お客様の立場になって考えてみてください。
何の準備もなく「懐事情を教えてください」という営業と、「決算書を見ても御社はたいへん
好調と推測しますが、特にどういった点に注力されているのですか?」と、こちらの状況に
配慮して具体的な質問をしてくる営業。
皆様ならどちらに頼りがいを感じるでしょうか? 「この営業にならば話してみよう」という
気になるでしょうか?
お客様の内情理解は、お客様に配慮した提案をするための第一歩といえるのです。
3.お客様の“想い”を時間軸で整理し、理想像の背景を知る
お客様の内情を理解する上で、時間軸の整理もたいへん有効な手段です。
なぜならば、私たちが歴史上の人物に強い思い入れを持って共感、尊敬できるのも、彼ら
の「ストーリー」を知っているからです。
例として、BtoBビジネスにおけるお客様経営層のストーリーを整理する切り口をご覧
ください。
いかがでしょうか?
こちらをお客様が扱っている商品を主語にするならば、過去の部分は「この商品が世に出る
ことになったストーリー」を整理することになりますし、 BtoCならば「現在の悩みや
問題(あるいは叶えたいこと)が生じたそもそものきっかけ」と置き換えて考えます。
こうして相手の状況を理解・共感した上での提言により、営業の配慮がお客様に伝わり、
「ここまでウチのことを理解し、配慮・共感してくれる営業が言うのだから、聴いてみよう、
こちらの想いを話してみよう」と、お客様の感情が動くのです。
4.「自社の3C」を整理し「USP」の仮説を立案する
ここで、初めにした話に戻ります。
「売るモノありき、自分の都合ありきのスタンス」から脱却するためには、思考の起点を
「自社にできること」ではなく「お客様の理想像とその実現ポイント」に意図的にシフト
することが必要と申し上げました。
ここまでにお伝えした「お客様の3C」及び内情(業務プロセス・財務・“想い”の時間軸)
でお客様の理想像とその実現ポイントを俯瞰した上で、自社の3Cを用いて「競合にはでき
ず、自社にできること(USP)」を整理することで、お客様の立場に立った仮説を立案する
ことができるのです。
5.まとめ、次回予告
今回は、営業活動を革新する5つの基本:その3「お客様を知るための視点」についてお伝え
しました。以下のまとめをご覧いただき、ご自身、あるいはマネジメントしているチーム・
組織の現状を整理することをお勧めします。
・「お客様の3C」を起点に「理想像と実現のポイント」を整理する
・「業務プロセス」「財務」(あるいは“個別事情”)の視点でお客様の内情を理解する
・お客様の「ストーリー」を時間軸で理解し、“想い”への共感をベースに提案する
・最後に「自社の3C」を整理し、USP仮説を立案する
次回は、環境変化に左右されず業績を上げ続ける営業が持つ、お客様の現状を分析し、仮説
を立案する際の「思考フレーム」をお伝えします。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。
この記事の執筆者
株式会社マネジメントパートナー
人材・組織開発コンサルタント
関 教宏(たかひろ)