営業活動を革新する「5つの基本」その4:~思考フレーム~
皆様こんにちは、株式会社マネジメントパートナーの人材・組織開発コンサルタント、
関 教宏(たかひろ)です。
前回まで、環境変化に左右されず業績を上げ続ける営業のものの見方(考え方)として
「役割と責任の認識」「お客様の理想像実現を心から願うスタンス」「お客様の3C+
内情+自社の3Cの視点」をお伝えしました。
今回は4つ目の「思考フレーム」についてお伝えします。
目次
1.はじめに
「ヒアリングの段階ではお客様と合意が取れていたのに、プレゼンで失注した」
「“あのお客様は新商材など求めていないだろう”と思っていたら、競合に新商材でシェアを
奪われた」等、営業活動はとかく「思い込み・決めつけ」によって頓挫します。
前回の記事でもお伝えした通り、
・「顧客の3C」及び内情から、理想像実現のポイントを推察
・USPを意図して仮説立案
・仮説を呼び水にお客様の現状や理想像を深堀し、共通テーマを模索
というのが「お客様の理想像実現を心から願うスタンス」を体現する“壁の向こう側”の商談
ですが、思い込み・決めつけで営業をすると「作った仮説に固執してお客様の話を訊かない」
「そもそも仮説が“売るモノありき”」等、この流れを台無しにしてしまうのです。
ではどうすれば、思い込み・決めつけに苛まれず、お客様と共通テーマを握り、成果創出の確率
を高められるのか? そのための思考フレームと用い方について解説します。
2.「事実・解釈・打ち手・行動・成果」の思考フレーム
1)思い込み・決めつけは事実と解釈の混同から生まれる
そもそも、思い込みや決めつけというものは、事実と解釈を区別して整理できていないことが
原因で生じています。営業の商談を例にとってみましょう。
提案した内容に対してお客様が「スペックは悪くないけど、価格的に社内稟議が通るかは難しい」
と言ったとします。この場合の事実と解釈(例)は下記のようになります。
・事実:お客様が「スペックは悪くないけど~難しい」と言った
・解釈:価格に抵抗感がありそう。社内稟議の段階で難儀しそう
文字で書けば当たり前のように見えますが、実際には事実と解釈が混同されることが少なく
ありません。例えば…
・スペックは悪くない→多分お客様は商品を気に入っている!
・価格的に難しい→ウチの商品がダメなんだ!
このように、お客様が一言も言っていないことに対して、勝手に自分の中で解釈してしまう。
これが思い込み・決めつけです。
では、このような思い込み・決めつけはどうして生まれるのでしょうか?
「感情にパフォーマンスを左右される営業は二流だ」
私が広告の営業マンをやっていた時の上司の言葉です。私はこの言葉について、それだけ
営業とは、感情に左右されやすい性質を持つ職業だという意味と捉えています。
例えば…
・一所懸命作った提案資料に、お客様が見向きもしてくれない
・この商談で受注しないと今月の予算が未達に終わる
・明日のプレゼンにお客様の役員が総出でお越しになる
このように、営業活動というのはプレッシャーのかかる場面の連続です(だからこそやり
甲斐があると言えますが)。
このような状況下で、例えばこちらが提案した商品について、お客様が「これ、いいね
(今はいらないけど)」と少しでも好意的な反応を示されると、お客様が今欲しいか否か
確認することなく、(いいねと言ってくれた!お客様は欲しいと思っているはずだ!)と
拡大解釈してしまう可能性があるのです。
また、お客様から提案内容を否定されると、まるで自分が否定されたように感じ、委縮
してしまうという方もいらっしゃいます(営業には「お客様の否定は商談の始まり」という
マインドを持っていただきたいものです)。
さらに、ベテランの営業マンにありがちですが、「あのお客様は長年この商品しか発注し
ないから、新商材など求めていないだろう」と決めつけて、気が付いたら競合にマーケット
を奪われるということもあります。
このように、成果へのプレッシャーや、仕事に対する固定概念により、思い込みや決めつけ
が発生しているのです。
2)事実と解釈を「切り分ける」思考習慣
事実と解釈を混同しないためには、事実と解釈の違いを知り、明確に切り分けることが必要です。
「事実」と「解釈」をそれぞれ辞書で調べると、
・事実:実際にあった事柄。現実にある事柄
・解釈:物事や人の言動などについて、自分なりに考え理解すること
例えば、「今日は35℃ある=事実」「今日は暑い=解釈」という風に、
・事実=客観(誰が見ても同じ)
・解釈=主観(人によって見え方が違う)と区別します。
営業活動においては、事実は以下の3種類しかありません。
①「データ(数字)」②「出来事」③「誰々が~と言った」
これ以外のものは全て解釈です。
営業が事実と解釈を切り分けるためには、「これは根拠となるデータ(数字)があるか?」
「何の出来事があってそう言っている?」「お客様・相手は何と言った?」という3つの
問いかけを常に自身に対して行うことが重要です。
3)「打ち手⇔行動⇔成果」を一気通貫で考える
事実と解釈を切り分け、思い込み・決めつけを防ぐことで「どうすればお客様の理想像実現
に対して貢献できるか?」という打ち手(仮説)の精度が高まります。後は、考えた打ち手
を基に、「行動と成果のシナリオ」を考えます。例えば以下の通りです。
・行動:お客様のキーパーソンに刺さる内容にするために、A部門と協力して提案資料を作成する
・行動:導入によって課題が解決する根拠を問われるはずなので、提案資料に根拠を記載し、
細かな質問に対する回答を準備する。準備内容を事前に上司にも確認してもらう
・成果:受注のみならず、導入後のフォローや進捗会議への参加等、お客様と深い関係を築く
きっかけになるはずだ
このように、「打ち手⇔行動⇔成果」を一気通貫で考えることによって、「誰を巻き込みながら
進めると良いか」「最終的に得たい成果に向かう行動になっているか」を整理することに繋がり、
成果を創出する確率が高まるのです。
3. 思考フレームの使い方
ここまでに、営業が持つべき思考フレームとして「事実と解釈を混同しないよう切り分けること」
「打ち手⇔行動⇔成果は一気通貫で考えること」が重要であるとお伝えしました。ここからは、
こうした思考習慣を日常の営業活動で鍛錬するためにはどうすれば良いかお伝えします。
1)事実の仕入れ
先に述べたように、「思い込み・決めつけ」が打ち手を狂わせます。
下図をご覧ください。
このように、「鮮度の古い事実」や「偏った事実」を手掛かりに打ち手を考え、成果に繋がら
ないというケースは多々あります。
こうならないためには、商談においてお客様に質問することで「事実を仕入れる」ことが重要です。
例えば、提案に対してお客様が否定的な反応だった場合「今は必要ないということですね。
承知しました。ところで、なぜ今は必要ないのでしょうか?他に優先したい事がおありなの
でしょうか?」と、否定する理由を深堀りすることでお客様の本音を訊く。
お客様が肯定的な反応だった場合「○○様、ありがとうございます。ちなみに、具体的には
どういった点を良いと思っていただけたのでしょうか?」「役員の○○様にお話しした時に、
どういった反応が想定されますでしょうか?」と、良いと思ったポイントや、他の関係者
から見たときに価値があるか否かを確かめる質問をする。
というように、提案内容の採否のみで商談を終わらせず、「提案+事実の仕入れ」までを
1セットとして商談に臨む(=提案後の質問まで商談シナリオに組み込む)ことで、お客様
の現状や理想像、問題点について「鮮度の高い事実」「様々な立場から見た事実」を仕入れ
ることに繋がります。
2)解釈の仕入れ
お客様から「鮮度の高い事実」「様々な立場から見た事実」を仕入れたところで、「お客様
の理想像を実現するための共通テーマ」をお客様と握るために何を提案すべきなのか、営業
の考えだけでは思い浮かばなかったり、限定的な発想の幅の中でズレた提案をしてしまい、
成果に繋がらないということが起こります。
こうした状態を防ぐために、「解釈を仕入れる」ことが重要です。
このような動きで解釈の幅を拡げ、お客様の理想像実現のために、当社でできる最大の貢献
は何か? 打ち手を磨き込み、共通テーマ創出、成果創出の可能性を高めることができます。
最後に、思考フレームを習得する上での留意点があります。
それは「トライ&エラーを繰り返すこと」です。
仮説を立てても周囲に相談しない(解釈を仕入れない)、提案するだけでお客様に質問しない
(事実を仕入れない)、そもそも事実と解釈を切り分ける事を疎かにしている等、このフレーム
は実際の営業活動で使い、結果から学ぶことでのみ、生きた知恵として身につくものです。
「考えた通りに(客先で、社内で)まずやってみる」「行った結果から学ぶ」ことから、生きた
知恵を習得して下さい。
4. まとめ、次回予告
今回は環境変化に左右されず売上・利益を上げ続ける営業の「考え方=5つの基本」の4つ目
「事実・解釈・打ち手・行動・成果」の思考フレームについて、以下のことをお伝えしました。
ご自身、あるいは自組織の思考・行動習慣を変えるヒントとしてご活用下さい。
□ 成果へのプレッシャー、長年慣れ親しんだ仕事の癖といった感情のブレが「思い込み・
決めつけ(事実と解釈の混同)」を引き起こし、打ち手を狂わせる
□ 事実(データ/出来事/誰々が~と言った)と解釈(自分の意見)を切り分ける思考習慣を
持つことによって、思い込み・決めつけを打破する
□「打ち手⇔行動⇔成果」を一気通貫で考えることにより、仮説の精度を上げる
□「事実の仕入れ」と「解釈の仕入れ」で、打ち手の幅を拡げる
□ トライ&エラーが習得に向けた唯一の道である
次回はこの連載の最終回、環境に左右されず売上・利益を上げ続ける営業の「戦略的・組織的
なPDCAサイクル」についてお伝えします。
この記事の執筆者
株式会社マネジメントパートナー
人材・組織開発コンサルタント
関 教宏(たかひろ)