営業活動を革新する「5つの基本」その5:~ 戦略的・組織的なPDCAサイクル ~
皆様こんにちは、株式会社マネジメントパートナーの人材・組織開発コンサルタント、
関 教宏(たかひろ)です。
前回まで、環境変化に左右されず業績を上げ続ける営業のものの見方(考え方)として
「役割と責任の認識」「お客様の理想像実現を心から願うスタンス」「お客様の3C+
内情+自社の3Cの視点」「事実・解釈・打ち手・行動・成果の思考フレーム」をお伝え
しました。
今回は、営業活動を革新する「5つの基本」シリーズの最終回です。
環境に左右されず売上・利益を上げ続ける営業の「戦略的・組織的なPDCAサイクル」
についてお伝えします。
目次
1.戦略的とは
ご存じの方には釈迦に説法ですが、まず「戦略的・組織的」について定義を整理します。
戦略的とは:競争の優位性(有利な状況を創ること)を狙って、「何を行うか」を選択・
決断し、そこに資源を集中し、波及効果で全体的成功を得る ことです。
競争の優位性とは、基本②でお話した「お客様の理想像実現を心から願うスタンス」を
ベースに、基本③でお話したお客様の描かれている理想像を実現する上で、競合と戦う
土俵をずらすユニーク・セリング・プロポジション(USP)を確立することです。
お客様に対して何を行うか選択・決断する時は、「どこを突破口にすればスピーディー
に成果を上げる可能性や、波及効果が高いか」を考えます。
その際、お客様がどのようにして理想像を実現しようとしているのか、お客様の視座で
整理することが効果的です。
BtoBなら、お客様のキーパーソンの目線に立って、変革(理想像実現)の構図を整理
するとよいでしょう。
BtoCの場合は、お客様が描く理想像の時間軸を中長期的な未来に置き換えて整理すると、
自社ならではの貢献策を仮説構築できるはずです。
基本④でもお伝えしましたが、一所懸命考えた戦略も「思い込み・決めつけ」によるものでは
お客様の理想像実現には繋がらず、成果に結びつきません。
戦略(仮説)を提言し、お客様の反応を梃に事実を仕入れ、仕入れた事実を社内に持ち帰って
上司・同僚・他部門の解釈を仕入れて戦略を検証し、中身を深化・進化させる。
このように、「戦略は育てるもの」という前提で、トライ&エラーを繰り返していくのです。
2.組織的とは
次に、組織的とはどういうことか、詳しく見ていきます。
組織的とは:自分一人でお客様に接するのでなく、上司や他部門を巻き込みながら取り組むこと
基本①で触れましたが、営業一人でやれるお客様へのお役立ちは質・量ともに限界があります。
だからこそ、「行くべきところ、会うべき人」にフォーカスし、社内の人材の意見や協力を引き
出し、質の高い活動に集中することが重要です。
そのためには、営業プロセスを俯瞰し、各プロセスを前進させるためにどうすれば良いか、自ら
の考えに固執せず上司や他部門と一緒になって考えていくことが必要です。
・今、どのプロセスまで進んでいるか(その根拠となる事実は何か)
・プロセスを進めるために必要なことは何か(そのために関係者がどう動くべきか)
・(結果を振り返る際)そもそも、どのプロセスに原因があったのか
プロセス毎の仮説立案と検証によって営業活動をコントロールし、営業として結果を出す
上で障害になっている部分を早期に発見・対策しながら、周囲の協力を引き出すことに
よってお役立ちの質・量を最大化することにつながるのです。
このように話すと「“プロセスをきちんとやれば結果は後からついてくる”というヌルい
営業論ではないか?」という反応をいただくこともあるのですが、
基本①で「責任を果たす(やり遂げる)」認識の重要性について触れた通り、あくまでも
「結果を出し続けるための営業プロセス推進へのこだわり」が重要であり、組織的な活動
がその根底にある、というのがここで申し上げたいことです。
戦略的・組織的な営業活動に常に拘り、実践することが「環境変化に左右されず売上・
利益を上げ続ける営業」への近道と言えます。
3.PDCAサイクルの留意点
戦略的・組織的な営業活動を前提として、PDCAサイクルを回す上での留意点について以下に
まとめていきます。
(1)年間スケジュールを把握する
業界によって繁忙期は異なります。年単位で見たときに、どの時期は種まきに集中すべきか?
繁忙期にあたふたしないためにいつまでにどう動くか?今年ならではの特殊事情は?と、
予め大まかなPlanを決めておくことで、行き当たりばったりの活動を防ぐ可能性が高まります。
(2)月・週単位のスケジューリングによる顧客との接触回数確保多くの場合、営業は社内の
事務処理や突発的な問い合わせ対応、会議や企画作成といった活動に忙殺されがちです。
しかし、そんな中でも多くのお客様との接点を持たないことには、お客様の事実(理想像や
現状、問題)を掴めませんし、そもそもお客様との親密度も上がっていきません。
だからこそ、ここまでに述べた通り「行くべきところ、会うべき人」への接点をスケジュー
リングの最優先事項とし、それ以外の活動を「自分がやる事」「関係者と一緒にやる事」
「任せる事」と分け、予め周囲にどう働きかければ協力してもらえるか?考え、時間を確保
しつつ進める事が必須と言えます。
更に、昨今はオンラインをはじめとして顧客接点も多様化しています。対面営業一辺倒で考
えずに、Web会議ツール、メール、電話等、あらゆる接点を組み合わせて勝ちパターンを
模索することも欠かせません。
(3)訪問前にやるべき事
「行くべき所、会うべき人」にフォーカスしたところで、そのお客様にとって合う価値を感
じる用件でなければ、お客様はお忙しい中わざわざ時間を割く気持ちにはなりません。
この傾向は営業のリモート化が進むほど、顕著になるはずです。
ですから、社内にあるお客様の基本情報(SFAや顧客カルテ等)を手がかりに、お客様の社内外
の繋がりを図式化するなどして、お役立ちの切り口を整理しておく事で、会っていただける
可能性を高められます。
(4)商談シナリオなくして聴き上手にはなれない
営業のあるべき姿勢が「お客様の理想像実現を心から願うスタンス」である以上、事実
(=お客様が描いている理想像や現状)をお客様の口から語っていただく必要があります。
これは営業にとって「話し上手よりも、聴き上手であれ」という事を意味します。
相槌や表情、復唱といった「コミュニケーションサイクル」を回すスキルが必須であると
同時に、事前準備の段階で商談シナリオを描く必要があります。
シナリオとは「脚本、筋書き」の事です。ただの商談準備と異なる点は、相手の感情を想定し
ながら、商談のゴールまで描き切るところです。
ただ提案する内容だけ固めて、後はその場の雰囲気で…という活動とは違い「きっとこの提案
をしたらこう思うはずだ、だからここで質問すべき事は…」と、実際の場面を思い浮かべなが
らシミュレーションするのです。
このように相手の立場で、様々な角度から検討する事なく「正にそれを訊いてほしかった!」
というクリティカルな質問が出来るはずがありません。
具代的には、以下の項目を整理する事が必要です。
・商談の着地(どうなって終わればOKか?)
・提案内容、顧客メリット、事例(2~3分で言い終えるようにまとめる)
・提案内容に関連する資料
・お客様の反応を想定の上、どんな質問を投げかけるか(項目+トーク)
最低限このくらいまとめ、不安ならばロールプレイングでトークを整理すると良いでしょう。
聴き上手の営業か否かは、事前準備をどれだけ綿密にやっているか否かということとほぼ同義
なのです。
(5)振り返った内容を記録し「手段の目的化」を防止する
お客様の事実と自分の意見(解釈)を意図的に切り分ける重要性については、基本④でお伝え
しましたので割愛しますが、振り返った内容をSFAやカルテ等に常に書き加えておく必要があ
ります。
記録することで、周囲と情報共有しやすく(解釈の仕入れがしやすく)なります。また、
「そもそも年間や長期の目的は何だったのか?」を思い出す効果があり、気づいたらお客様
からのお問合せに目先で対応していたという「手段の目的化」を防止する事にもつながります。
以上、営業活動の基本5つ目、「戦略的・組織的なPDCAサイクル」についてお伝えしました。
4.結び
今回の連載記事では、環境変化に左右されない営業のものの見方を5つの基本に分解し、お伝え
しました。
営業マンの方はご自身の営業活動の棚卸しとして、営業マネジャーや責任者の方は自組織の現状
を見直すモノサシとしてご活用いただければ幸いです。
私は、営業という仕事を「お客様の応援者」と捉えています。
お客様自身にも見えていない理想像の実現に向けて、お客様と同等、あるいはそれ以上に考え、
時にぶつかったり、落ち込んだりしながら、組織の知恵を結集して、お客様と一緒になって夢
を現実のものにしていく崇高な仕事であると思います。
営業職に従事される全ての皆様を、心から尊敬しています。
本連載が、営業の皆様にとって、理想像を実現するヒントになることを心から願っています。
「営業革新・組織営業力強化」について相談事がありましたら、どうぞお問い合わせください。
この記事の執筆者
株式会社マネジメントパートナー
人材・組織開発コンサルタント
関 教宏(たかひろ)