マネジメント / リーダーシップ

SIerに不可欠な人づくり②
~ A社、B社の事例 ~

Ⅳ.今後SIerに不可欠な人づくり・組織づくりのポイント

今後SIerに不可欠な人づくり・組織作りのポイントについて先ほど申し上げた本質的な課題である「つながり」を持たせるための、人づくり・組織作りのポイントを事例を交えながらお伝えします。

今回はお伝えするポイントは3点です。

さっそく1点目です。

A社様は独立系SIerで、社員は800名ほど電機メーカーを中心に、金融、ヘルスケアなど、幅広い顧客を持っています。A社様は、2030年ビジョン実現のステップとして、3か年中計を3フェーズに分けて打ち出しました。ビジョンとしては、2030年に、既存ビジネスの深耕と、新規・デジタルビジネス領域を育成、拡大でもって200億を達成しようと掲げていました。

A社様も、このままの既存ビジネスだけでは、成長が困難であると考え、既存ビジネスの深耕で粘りつつ、新しいことを創造し、チャレンジブルにやっていこうと考えたわけです。

こと、最初の3か年においては、

事業の変革として、事業構成比、既存8、デジタル2を既存7、デジタル3にしよう!

業界ポートフォリオとしては、これまでは電機・金融中心であったものを、

半導体、ヘルスケアも加えていこう!ソリューションとしては、これまではモノ、自社プロダクト、今後はモノに加え、サービス、 自社製品だけでなく、他社の先進プロダクトも加えてトータルソリューション提案していこう!という方向性を打ち出しています。

同時に、この方向性で、持続的成長を実現させるための人と組織の変革をしていこうとしています。ここが「つながり」というものですよね。

そして、事業の変革を後押しする、人事評価制度の再構築。事業の変革を実現させるには、人材が不可欠です。そこで多様な人財が活躍できる職場環境の再整備をしていこうとしていますし、

そもそも論ですが、顧客の事業に貢献できる提案型エンジニアの育成も力を入れていきたい、また事業の変革には、そこに向かってやっていこうという組織の風土改革も欠かせない、このようにしてA社様は「事業の変革」と「人と組織の変革」に「つながり」を持たせようとしているわけです。

大事なのは、事業の変革と人と組織の変革が、本当に繋がっているのか、です。今回、ご参加の皆様も、セミナーに参加しようと思うくらいですから、高い問題意識と、何とかせねばという課題意識をお持ちなはずです。

事業の変革、人と組織の変革について、今後の具体的な打ち手も「つながり」で考えていらっしゃるかと思います。

今回は、その取り組んでいらっしゃることをさらに効果的にする、つまり「つながり」を強化するためにご確認いただきたいのですが、

御社の打ち手は、何のための打ち手か、その打ち手によって何をどう変えるかを、

From⇒TOで示せていますか? それが「つながり」を持たせるためには重要だということを再認識いただく機会にしていただければと思います。

A社様の事例に話を戻しますと、よく見ていただきたいのですが、事業面では、どこに向かっていけばいいのか、というTOは示されていますが、ただ人と組織の面については、再構築、再整備、育成、改革と、取り組むことは明示されていますが、そのことによって、どのような状態を作りたいのかが明示されていません。このようなケースは、A社様に限らず多いです。人事評価制度がどのように機能すればいいのか、職場環境が現状どうなっていて、それがどのような職場環境になっていれば良しとするのか、提案型エンジニアは、現場でどのような動きを率先してできる人のことを言うのか、どのような風土になればよいのか…。

このあたりの「つながり」を意図した打ち手になっていないと、素晴らしい取り組みも、効果が得られず、なかなか思うようにコトが進まないなんてことになりかねません。

From TOのイメージですが・・・、

例えば、「決められた要件通りに間違いなく業務遂行する失敗回避の風土から、
何が顧客にとっての価値か自ら考え発信する試行錯誤の風土に変える」
というように
示せるといいと思います。

このTOに向かわせるために、再構築とか再整備とか、醸成といった打ち手を講じるという共通認識が持てると、人づくり、組織づくりに向けた取り組みが加速すると思います。

ここで申し上げたかった1つ目のポイントは、
「事業変革」と「人・組織の変革」をつなげるためにハード面のFromTOと、ソフト面のFromTOを明示しリンクさせて取り組むということです。

ここをハッキリさせていかないと、創造、チャレンジブルの方向性がわかりづらいのではないでしょうか。またその状況では人づくり、組織作りは進まないのではないでしょうか。

ここまでは、事業と「人と組織」の「つながり」についてお話してきました。
もっと具体的な「つながり」の事例で、次のポイントをお伝えします。

B社様の事例です。

B社様は、制御、組込システムを主力する独立系SIerです。
社員は600名ほど社会インフラ、自動車、情報機器分野を主な顧客としています。
B社様の今後の事業の方向、そこに向かうための課題認識、人材教育のあり方は、元請けビジネスを積極的に取りに行くこと、そのためにはビジネスの拡張を担うマネジメント人材を揃えることが急務となっています。
ビジネスの拡張を担う人材を揃えていく、そのためには事業戦略、組織設計、登用制度、教育、を一気通貫させていく必要があると考えています。
まさに「つながり」を持たせようとしています。

こういった取り組みを担う人の教育における最重要ポイントは、視座転換であり、スキルインプットではないと考えます。
研修は「受講者同志の連帯」「経営層との意思の連鎖」を築く機会として、マネジメント層への研修を実施しています。
また、「研修」と事業部の「戦略実行プロセス」を連動させて進めていらっしゃいます。
まさに「育成」と「戦略」との「つながり」を持たせようとしているわけです。
特に、着目していただきたいのが、教育の最重要ポイントを「視座転換」においていることです。ここでいう視座転換は「今までの、ものの見方を変えること、より広い範囲を見れるようになること、もっと先を見据えて考えられるようになることを言っています。

話はやや脱線しますが、とは言っても…という話なのですが、IT業界は、視野が拡がりにくく、視座が上がりにくい業界なのではないかと思っています。顧客の要望に従い、決められた仕様通りにシステム開発、派遣型のビジネスモデルであれば、常駐客先で言われたことをこなす日々ですし、ちょっとした改善提案をすることはあっても、基本的には言われた通りに作業するのが日常。

このような仕事ぶりが続くと、エンジニアの視野は拡がらず、視座も上がりにくい。先を見据えた時間軸を持てと言われても…と、視座・視野が低い・狭いところで固まってしまうかもしれません。
 
リーダーやマネジャーの肩書がついている人でも、肩書に相応しい視座が獲得できていないケースもあります。それが現状なのではないかと思っています。
 
とは言え、今まではこれでも何とかなってきました。

しかし、今後会社がデジタル分野の拡張等、事業構造転換に注力するようになると、期待と現実とのギャップがどんどん大きくなります。ゆえに手を打っていかなければならないわけです。

さて話を戻します。ではB社様では、「視座転換」を教育のポイントにおいた教育・研修をどのように取り組んでいるのかご紹介します。部長昇格前の研修です。

「自分が部長だったら」という想定で部門戦略をつくって実行してみるというアクションラーニングです。

この「自分が部長だったら…」が大事です。

昇格前から、部長の視座で考えられるようになろうというアプローチです。「部長の視座で情報を集めているか?」「部長の視座で意思決定しているか」「部長視座で関係者を巻き込めているか」と問われ続けられます。

この研修では、経営陣とのディスカッションを通じて進めていきますので、「経営目線ではそういう判断になるんだぁ」とか「見えている世界が違う、広いなぁ」「え、そんな先々への影響も考えて意思決定するものなのか」ということを目の当たりにしながら「視座転換」を図っていく取り組みです。

また、研修そのものを、実際の戦略実行プロセスと連動させて進めています。戦略そのものと育成との「つながり」、また戦略実行プロセスと「育成」とのつながりをこのようにして持たせています。

ですから、基本方針発表直後に、基本方針にもとづく戦略の策定を研修で実施しますし、そこで策定された計画を実際に計画として進められるか否か、検討され、STEP2で計画のブラッシュアップをします。

その後、フォローしながら、最後は計画そのものを振り返ります。

このような教育を施すことで、結果としてマネジメントに必要な能力が磨かれ、マネジメント人材が育つ、ということです。

ご注意いただきたいのは、この取り組みを単なる「戦略策定スキルの向上」を目的とした研修ではないということです。

あくまでも、戦略策定、実行、評価・検証を通じて、経営目線、部長視座に転換を図ることに、この取り組みに「つながり」の工夫があるということです。またこのような取り組みを通じて、結果として、マネジメントに不可欠な、ビジョンニング、情報収集、分析スキル、
課題設定スキル、プレゼンスキル、仮説検証スキルが身につくとご理解いただければと思います。

今回、ご紹介したのは、部長昇格前の方たちを対象とした教育・研修の事例だったのですが、視座を上げる、転換させるといっても、そうそう一朝一夕とはいかないものです。
ゆえに、視座の転換を段階的なアプローチで図っていくという「成長ステップモデル」の発想を持つといいと思います。

それぞれの立場、その立場に期待されている仕事ぶりが「本質」、担うべき責任、持つべき視野、時間軸と整理してステップバイステップで視座を上げ、経営目線、事業目線で考えられる人材を増やしていくことをおすすめします。

B社様の事例を通じて、お伝えしたかったポイントの2つ目は、人づくりは「視座転換」を軸に組み立てましょうということです。

視座が変わらないままだと、スキルの習得を図ろうとしても、今の自分の業務に即役立つかどうか、という関心事で学んでしまうため、意図する育成効果が得られず、いつまでもビジネスを創造へのチャレンジが起こらない。

つまり、人づくりが進まないということです。

今回は、課長から、部長への視座転換を狙った取り組みでしたが、実は、もっと早く、視座転換にポイントを置いた教育が必要だと思います。マネジャーになってからだと遅いかなと、タスクリーダーくらいのときからいかに早く視座を上げられるか否か、ここで差がつき始めるケースが圧倒的に多いと思います。

ご参考までに、ここまで申し上げてきた視座が上がり、視野が拡がるイメージを補足しておきます。

客先常駐のSEの方に、自身の仕事を俯瞰した図を描いてもらいました。

この方はタスクリーダーになったばかりでして、

今後は、いち早く、タスクリーダーの視座で現場を見られるようになってほしいという期待があります。

タスクリーダーとしての視座を身につけるための研修や現場の取り組むことを通じて
このように、見える範囲が広げられるようにすることが視座転換です。

B社様の人材教育投資と累積効果としては、このように捉えていらっしゃるそうです。
3点です。

1点目は研修と仕事は一体のものという、社内での世論が行き渡ってきたということ、つまり、会社で取り組んでいる教育施策が現場に浸透しつつあるということです。

研修で活用しているシートの存在を知っている人が多い、研修で学んだことが社内で共通言語化している。研修でなされるディスカッションは、現実の仕事や戦略がテーマなので、研修以外の時も、ディスカッションの延長戦があちらこちらで行われます。ゆえに研修ではこんな場面もあります。

「あ、そうそう、前回の研修後にも上司やこのメンバーとも話したんですけど・・・」ということが多いです。

2点目、次のBU長を担う人材、次のMMを担う人材がストックされてきた。「次のBU長はS様かな、よって、S様の後任にはT様に頑張ってもらおうか」と目途がつくようになってきたということです。

3点目、マネジメント人材不足が事業拡張の足かせということが
なくなった。2点目につながるところはありますが、任せられる人がいるという状況がつくれてきたということ
これは、中長期経営構想、事業戦略、組織設計、人材登用制度、マネジメント教育、人と人との関わりの繋がりを持たせた取り組みがもたらした成果だとのことでした。

こういった取り組みは一朝一夕にはいきませんが、5年くらいのスパンで見ると、着実に教育の累積効果が出ていると言えるのではないでしょうか。人的資本投資を長い目で見た取り組みとして、非常に参考になる事例ではないでしょうか。ビジネス変革と「社内の人と組織の変革」との繋がり、この方向で人を育成するときの軸は、「視座転換」だという話をしてきました。

一方で、そもそも、その「今後」を担う人材、絶対数がいない、採用頑張っても、いなくなってしまうという切実な悩みがあるのも実態でしょう。そこで、C社様の事例紹介を通じて、優秀な人材がイキイキと働き、自社に貢献してもらうためにどうしたらよいのか。

ここでは、エンゲージメントの向上についてお伝えします。

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