マネジメント / リーダーシップ

キャリア自律で新常識を創る:
前編

こんにちは。株式会社マネジメントパートナー人材・組織開発コンサルタントの北村理恵と申します。本セミナーでは3つのことをお伝えします。

1.キャリア自律の重要性と落とし穴について

2.キャリア自律推進のポイント

3.キャリア自律推進のポイントを取り入れて成果を出している企業の事例紹介

どうぞよろしくお願いします。
本記事では第1章をお伝えます。


 

1.キャリア自律の重要性と落とし穴について

皆様、厚生労働省が主催となっている「グッドキャリア企業アワード」というのはご存じでしょうか? 2023年1月に「グッドキャリアアワード2022」が開催されました。こちらは、従業員の自律的なキャリア形成を推進する企業を表彰するのですが、キャリア形成支援の重要性を社会に広めて、定着を図ることを目的に実施されています。

このように自律的なキャリア形成は国も推進しています。なぜ自律的なキャリア形成が重要なのか、それには時代背景が大きく影響しています。

皆様ご存じの通り、現在は変化が当たり前の世の中です。将来の予測が難しく何が起こるかわかりません。時代の変化と共に、顧客ニーズもキャリア観も多様化しています。また人生100年時代となり、個人の人生が長期化しています。キャリア形成もより予測できなくなりました。それに対応するには、これまでの常識に囚われず、新たな常識を生み出していく必要があります。それは「いつか考えなきゃいけない」問題ではなく、「可能な限り早く取り掛かるべき」課題です。
自律的なキャリア形成が叫ばれる背景には深刻な事実があります。
それが次のグラフです。

左側のグラフは性別年齢別の就業者数です。95年の数値を基準に就業者数の推移を表している。こちらで注目したいのは、60代未満の男性が年々減少していることです。一方で女性と60歳以上の男女の数値は上がっています。

つまり、現在の労働力は女性と60歳以上の層に支えられて成り立っているということです。これまでは60歳以下の男性中心だった企業も、多様な人材が活躍できるように変革する必要があります。
多様な人材の活躍を推進する上で注目されていることの1つが、キャリア自律です。

私どもの考えるキャリア自律とは、
「組織貢献しながら、ありたい姿を実現するために自らキャリアを切り拓く」
ということです。

組織に貢献するからこそ幸せなキャリアを築けるのです。
ここでいう組織貢献とは、義務的に行うということではなく、自らの意志・自らの選択で取り組む貢献のことです。自ら選択することで納得感を高めます。納得感を高めることで、「ヤラサレている」という感覚でいるよりも高いパフォーマンスを発揮することができます。

同じ組織貢献でも組織に依存したキャリア形成では、結果的に組織にとっても個人にとっても良い方向に進みません。

左上が組織に依存したキャリア形成です。与えられたステージの中で組織主導のキャリア形成をするだけでは変化に対応できません。新たな知識やスキルを、自らの選択で身に付けていくような人材こそ、変化に対応できる強い組織を創り出せるのです。一方、自分の幸せのみを追求するのが右下の自立的なキャリア形成です。関心の高いことややりがいに繋がることに対しては力を注ぐのですが、苦手なことは、自分に向いていないと決めつけて避けてしまいます。そうすると「自分らしさ」をはき違えてしまいます。

自らの意志・自らの選択で組織貢献しながら自己実現に向けてキャリアを切り拓くことで、年齢・性別に関係なく活躍することができます。
キャリア自律を推進することは、図のようなメリットがあります。

ところが、キャリア自律を実際に推進する方からお話を伺うと、次のような「落とし穴」にはまっているケースも少なくないようです。

この中でも特に手痛いのは退職のリスクではないでしょうか。
ただ、本当にキャリア自律の推進が退職に直接つながっているのでしょうか?
私たちはそのようには考えておりません。
そうなる要因は「依存的、または自立(じたつ)的なキャリア形成施策が、従業員にとって“隣の芝が青く見える”状況を引き起こしていること」と考えております。

「依存的なキャリア形成」だと他責思考になり、エンゲージメントやパフォーマンスが低下していきます。「上司や会社が〇〇してくれない」という不満や被害者意識を抱きやすく、隣の芝が青く見えています。

「自立的なキャリア形成」だと、自分の思うようにキャリアが形成できないと、自分には合っていないと捉えてしまい、もっと他に自分に合っている企業があるのではないかと考えます。
「自律的なキャリア形成」をすると、高いパフォーマンスを発揮する傾向があり、仕事充実感も上がります。

皆様はこの図をご覧になってどのように感じましたか? 実際、キャリア自律を推進することで離職率が大幅に下がった企業もあります。とことんキャリア自律を深めていけば結果的に離職率は下がると、私は考えます。

なぜキャリア自律の落とし穴にはまってしまうのか?
その原因は、キャリア教育の仕方にあります。

自分の「やりたいこと」追求に重点を置き、個人任せにすると自立的になりがちですし、組織主導だと依存的になりがちです。
そもそもキャリア自律とはアメリカで1980年代に発祥したとされる概念です。キャリア自律自体は変化の激しい今の時代に必要ですが、日本にはアメリカと異なる独自の歴史や雇用状況があります。

アメリカでは即戦力となる人材を補充します。そのため、欠員が出たり必要に応じて募集活動をします。即戦力を求めているので要求されるスキルも明確です。また、一度採用されても組織の期待する成果が出せないと解雇されることもあります。At-willの原則というのは、いつでも自由にやめることができる、いつでも自由に解雇することができるという制度です。ですので、長期的に働くとしても他の会社へ転職しようとしてもスキルや実績が必要なのです。そのような背景から自ら継続的に学ぶという文化が染みついています。言い換えるとキャリア自律は当たり前の状況であり、キャリア自立でも問題無いのです。

一方日本では、入社後に育成することを前提にしています。希望の企業に入社することがゴールとなり、そこから先は自然と組織主導となる、そのため、大学生は「自分がどう考えているか」よりも「何をすれば採用されるのか」という点を重視し、入社後も「どのように振る舞えばより良い地位になれるのか、より収入が増えるのか」という点に関心がいきます。また、年功序列が当たり前だった時代に社会人になった人は管理職になることが1つの成功でした。そうすると管理職にならなかった人はミドルシニアに差し掛かった時に目指す姿がイメージできず、モチベーションを下げてしまう人が増えます。希望の会社へ採用が決まった直後、将来を考えてスキルや知識を自ら貯えようとする人がどれくらいいるでしょうか。組織のアプローチなしで何歳になっても成長し続ける意味や意義を見出せる人がどれだけいるでしょうか。

時代が変わり、現在は終身雇用も年功制度もなくなりつつあります。しかし、キャリア依存になりやすい状況というのは根深く残っています。中途半端なキャリア教育は意味をなさなかったり、キャリア自立を助長することにもなりかねません。

ですので、日本独自の状況に合わせた推進方法、もっと言うと、その組織に合わせた推進方法を取るべきなのです。そのために必須なのが、三位一体で推進する、ということです。

先ほどもお伝えした通り、日本は企業主導のキャリア形成が当たり前でした。時代の変化とともに少しずつ制度や体制も変化していますが、それでも根深く残っている風土や思い込みがあり、時代に合わせた変革も浸透しないという例は多々あります。組織が古いとか、本人が依存的だからと言っているだけでは何も変わりません。本当に変革するためには、過去の常識に捉われず、新常識を創り出す必要があります。組織が制度を整えても個人が動かないと何も変わりません、個人を動かしていくためには支える人の存在が重要です、そして個々人が動き出せるようにならないといけません。

だからこそ、「個人」だけではなく、「個人を支える人」「組織」の三者が一体となって新常識を創り出す必要があるのです。どれか一者だけの取り組みでは限界があります(後編へ続く)。

関連記事
おすすめ記事
PAGE TOP